2015 Fiscal Year Research-status Report
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26370771
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
櫛木 謙周 京都府立大学, 文学部, 教授 (60161626)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 律令制 / 技術 / 開発 / 造営 / 調庸 / 国造制 / 伴造・部制 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず、技術者の源流が7世紀に集中して現れることに関して、その歴史的背景について考察を加えた。その結果、池溝・交通関係の開発と宮殿・寺院の造営とが相互に密接な関係をもって、技術と労働力を駆使して王権の「天下」統治のインフラストラクチュア整備事業として語られてきたことが重要であると考えた。そして、古くに設定された伝説的記事はこの七世紀の様相が反映されていることを確かめることができた。特に、従来あまり注目されてこなかった造船について、開発・造営と密接な関係があることを明らかにしたことは重要と考える。このように7世紀には開発と造営を行う主体として王権が前面に出てくるが、その王権を技術面から支える専門家が必要になってくる。またこの時期に大規模な労働力動員が行われるが、その膨大な労働力(技術労働力を含む)を組織化して、王権による大規模な事業を遂行するうえでも、王権に直接仕える「技術者」の存在が重視されたのであり、これが当該期に技術者伝承が集中して現れる歴史的背景であることを明らかにした。 また、諸国の物産についての史料を収集し、前科研で収集した物価データも一部活用して、繊維製品と海産物を中心に、律令制下の収取にみる産業構造の特質、その歴史的前提について考察を加えた。歴史的前提として、国造制と伴造・部制とが重層していることを明らかにするとともに、律令制下の宮都を中心とする国家的需要に応じた強制や規制が加えられていることを重視した。また、海産物において供御にあてる高級品が贄などとして調とは別枠で収取されたのに対して、繊維製品は高級品も正調として収取されるという構造の違いを指摘し、これは繊維製品が現物貨幣の側面をもっていたことを示すと解した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、(1)日本古代の産業を成り立たせているしくみを分析するにあたって、律令制という統治システムが、古代の産業やその基礎をなす技術の形成過程とどのように関係していたかを具体的に明らかにし、(2)産業の核となった寺院・官衙・貴族などの組織体や市など、公的・私的・公共的な場と産業との関係を解明することを目的としている。 (2)については、平成26年度の研究でほぼその目的を達し、成果は『岩波講座日本歴史』の論文に反映させることができたので、平成27・28年度には、(1)の問題を中心に研究を行うことにしている。その考察の中心となるデータの収集について一つの中心をなすのは、国史や法制史料、木簡等に現れた10世紀初頭までの諸国物産に関する史料を網羅する作業であるが、その作業をほぼ順調に終了することができ、その分析に移っており、その成果の一部は研究成果の概要に記したとおりである。また、記紀、風土記等、律令制成立以前も含めた造営・開発関係の史料および研究文献等の収集もほぼ終えることができ、その分析成果は、これも研究成果の概要に記したとおりである。 (1)の研究目的に即した成果を最終的にまとめるにあたって、律令制下の産業を構成する「人」と「モノ」の二つの視点からそれぞれ論文を作成するという着想を得ており、「人」については、技術官人や匠丁、「モノ」については調庸を中心とする中央への収取物品を中心に考察を行うという具体的な構想が固まっている。
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Strategy for Future Research Activity |
律令制下の産業構造を明らかにすべく、「人」と「モノ」の両面から考察する作業を平成28年度も継続して行うが、前者については、前年度までに律令制以前の造営や開発という歴史的前提を明らかにした成果を受けて、日本独自の匠丁と技術官人のあり方がどのようにして形成されてきたのかを明らかにする作業を完成させる。この問題を具体的に解明するにあたって、史料的には、木簡などの新たに発見された史料を活用し、雇役制や仕丁制など、他の力役制度との関係なども視野に入れながら考察を加える。 モノの側面から諸国物産データをもとに考察する点については、調庸収取の源流を明らかにする作業を完成させ、伴造制・国造制という組織が産業構造をどのように規定していたのかについて考察する。また、調庸品目についてはその固定性がこれまで注目され、それが令制以前の収取を受け継ぐものとして評価され、伝統的収取との連続性が強調されてきたが、その見直しを行う。これらの変更記事を集めてその個別の事情を考察する作業を完成させるとともに、全体的な特徴を明らかにして、それが産業構造全体のあり方といかに関わり、律令制の産業政策がいかに反映されているかについて考えたい。また、考古学からの産業政策論との接点も模索することをめざす。 いずれについても、史資料の脱漏等がないように点検するとともに、すでに収集したものの見直しと吟味と進め、前年度までに大方達成できた見通しをより確実なものにして論文を完成させたい。
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Research Products
(1 results)