2016 Fiscal Year Research-status Report
長岡京・平安京近郊地域の研究-寺社史料を中心として-
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26370778
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
吉野 秋二 京都産業大学, 文化学部, 准教授 (50403324)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 平安京 / 寺社史料 / 京の近郊 / 地域史研究 / 庭園 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、地域史の観点から、古代山城(背)国北部地域の展開を考察するものである。考古学・歴史地理学など隣接諸分野の調査・研究成果も批判的に検討し、方法論的側面も含め、古代地域史研究の範となる研究をめざしている。 当初計画では、平成26年度は乙訓郡域、平成27年度は愛宕郡域、平成28年度は葛野郡域、平成29年度はその他の地域(紀伊郡域など)を主要研究対象とすることを予定していた。本年度は、計画に従い、平安京域も含め、葛野郡域を中心に研究を進めた。 まず吉野秋二「平安京跡左京四条一坊二町出土の木簡」(『古代文化』第68-2号)を執筆し、平安前期の公的施設(ないし邸宅跡)から出土した木簡について考察した。出土木簡には、「難波津の歌」全文を仮名で墨書したもの、医書の習書木簡など、出土事例がないものも含まれるが、その内容を紹介し、意義を論じた。また、吉野秋二「書評 海野聡著『奈良時代建築の造営体制と維持管理』」(『建築史学』第68号)を執筆した。海野著書は、律令制期の建築の「維持管理」を追究した建築史の最新の成果である。その意義と問題点を論評し、建築史分野に発信した。 また、口頭報告として、吉野秋二「平安前期の貴族邸宅と庭園」(京都産業大学日本文化研究所2016年度2月例会)を行った。報告では、平安前期の貴族邸宅について、藤原良房染殿第と、藤原良相西三条第を中心に、その特色を分析した。考察にあたっては、葛野郡域・愛宕郡域に所在する離宮・別業の使用形態との比較も行った。 なお、日本古代史全般に関わる研究成果として、吉野秋二「日本古代の国制と戦争」(『日本史研究』第654号)を発表し、日本古代国家の国制の歴史的特質を、5~7世紀を対象として、軍事的側面を中心に論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、平安京域も含め、葛野郡域を中心に研究を進める予定であった。平安京域・葛野郡域に関する研究成果としては、吉野秋二「平安京跡左京四条一坊二町出土の木簡」(『古代文化』第68-2号)を執筆した。また、口頭報告吉野秋二「平安前期の貴族邸宅と庭園」(京都産業大学日本文化研究所2017年2月例会)を行った。平安前期の貴族邸宅と庭園の歴史的特質を、京郊外の離宮・別業も含め検討した。また、木簡・墨書土器など平安京・近郊地域で出土する考古資料についても、理解を深めた。最新の発掘調査成果を踏まえ、考古学・歴史地理学・庭園史学との学際的研究の方法を追究することができた。 学際的研究の方法については、建築史学に関して、吉野秋二「書評 海野聡著『奈良時代建築の造営体制と維持管理』」(『建築史学』第68号)、考古学に関して、吉野秋二「日本古代の国制と戦争」(『日本史研究』第654号)を執筆し、さらなる前進を図った。 本研究は、寺社史料を主たる分析対象とするものである。2ヶ月に1回のペースで開催されている古代寺院史研究会に継続して参加し、畿内および近国の寺院史資料について、考古資料も含め、検討を続けている。本年度公表した成果の多くは都城域を対象とするものだが、古代寺院史研究会が発刊予定の論文集に学術論文吉野秋二「山背の行基寺院-紀伊郡域を中心に-」を次年度掲載する予定である。既に原稿を提出している。論文は、奈良時代を主対象に、山背国内、紀伊郡域の秦氏と行基の活動との関係を検討したものである。広隆寺など葛野郡域の秦氏関係の寺社史料も検討材料として扱っている。 以上のように、当初計画とは若干異なるものの、順調に計画を遂行することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、まず乙訓郡・愛宕郡・葛野郡以外の山城国諸郡についてポイントを絞って研究する。宇治郡に関しては、「山科郷古図」(12世紀中期)、貞観9年(867)「安祥寺資財帳」など地域史を全体的に考察し得る寺院史料があり、上原真人編『皇太后の山寺』(柳原出版、2007年)など優れた学際的研究がある。寺社の所領分布、水利の復原などに焦点をしぼって史資料の調査、現地踏査を行い、乙訓郡・愛宕郡・葛野郡域との比較・検討の材料とする。 なお、紀伊郡に関しては、既に古代寺院史研究会の編集で出版予定の論文集に、吉野秋二「山背の行基寺院-紀伊郡域を中心に-」を執筆し、原稿を提出している。この論文は、紀伊郡の法禅院を中心に、山城の古代寺院、特に秦氏建立寺院と行基との関係について論じたものである。既発表論文吉野秋二「平安前期の広隆寺と周辺所領」(『古代文化』第64巻3号、2012年)とも関連する成果である。今後、紀伊郡と葛野郡と紀伊郡の秦氏の地域経営の状況を、寺社史料を活用して、具体的かつ全体的に復原する作業を進めるつもりである。 以上の作業を平成29年度前半に終え、後半は、4年間の研究成果を総括する作業に充当する予定である。本研究の研究成果と都城制論に関する既発表論文を集成した論文集『日本古代の京と近郊地域』(仮題)の出版を目指し、作業を進めるつもりである。京都産業大学に所属する研究代表者にとって、本研究は「ホームグラウンド」を対象とする地域史研究である。(財)京都市埋蔵文化財研究所などの機関の調査に参加する機会も多く、社会的責任も大きい。考古学・歴史地理学など他分野の研究者に対して文献古代史の特性を発信し、学際的な調査・研究の礎を築きたい。
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Research Products
(5 results)