2015 Fiscal Year Research-status Report
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26370789
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
多和田 雅保 横浜国立大学, 教育人間科学部, 教授 (10528392)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 日本近世史 / 地方史 / 流通史 / 在方市 / 商人 / 信濃国 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の重要な実績の1つは、雑誌論文1を公表し、18世紀前半期を通じた小布施市における商人宿の勢力の伸長及びそれに影響を受けた路上から商人宿の店舗内部への売場の移動の具体的な姿について、確定することができたことである。在方市におけるこうした変化は一見局所的なものではあるが、周辺の農山村や遠方の都市、漁村も含めた広域レベルでの社会変容の実相を探るうえで決定的な意味を持つし、17~19世紀といった近世全体を通じた変化をみるためにも不可欠な視点であって、公表の意味は大きい。 上記の立場に基づき、今年度はかねてからの課題であった、小布施市に商品ももたらす側の地域における歴史資料の調査・収集を進めることができた。とくに上越市公文書センター及び新潟県立文書館において、小布施を含む北信地方に塩と肴をもたらした高田城下町の問屋商人、越後の浜方における漁民、及び上信国境を越えて移動する運輸業者らの実相を伝えてくれる資料が豊富に残されていることを見出し、これを収集した。あわせてそのための関連書籍(当該地域の自治体史)も多く購入した。いっぽう、小布施に薪をもたらした山間村の様相を探るため、長野県上高井郡高山村役場を訪問し、村民と山とのかかわりを示す近世史料が大量に残されていることを確認し、これらを多く収集した。このように、ひとつの小さな在方市に流入するそれぞれの商品に関して、生産地まで含めた資料調査を行うことは学術上重要な意義を持つ。 小布施周辺の香具師集団については幕末期に作成された名簿が残されており、1400人を超える彼らの人名、居所、肩書などについてデジタル入力を行うことができた。 小布施町文書館における歴史資料調査・収集も引き続き行ったが、本年度はそれとあわせてこれまでの歴史資料目録のデジタル入力を昨年度よりも重点的に進めることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成26年度(研究計画の初年度)に行うことが計画されていたが、果たせず積み残しになっていた資料調査(香具師集団の調査及び高山村における調査)について、27年度はほぼ達成することができた。あわせて当初から本年度に行うことが計画されていた上越市公文書センター及び新潟県立文書館での調査についても、予定どおり行うことができた。 上越市と新潟県において見出した資料は、高田城下町あるいは越後の浜方から小布施を含む北信地方に流入する塩と肴の移動ルートが当初予想していたよりも複雑(複線的)であり、それらのルート間においてさまざまな矛盾・相克が絶えず発生してことが明らかとなった。このことは、小布施などの北信地方における市場に到来する商人の性格や、北信地方の商人と越後の商人との関係について考察するうえできわめて重要な示唆を与えるものである。小布施市をとりまく世界は、当初計画書を作成する段階で予想していたよりも豊かであることを示すものだということができる。この点を見出すことができた点で、本年度の成果は当初の計画以上に進展しているということができる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は本計画の最終年度である。平成27年度までに収集した、肴商人、塩商人、山間村の人びと、香具師集団などについての歴史資料の翻字作業を一層すすめることを重要課題とする。あわせてこれらを素材とした研究を進展させ、論文の執筆に取り組む。 当初の研究計画では平成28年度は北信地方における小布施以外の市場についても歴史資料の調査・収集を行うとしていたが、27年度までの研究の進展により、そのなかでも小布施から北東8キロメートル余りの地点に位置する中野村(中野代官所の所在地であり町場化が進展していた)の在方市の動向が注目されることがわかってきた。今までに収集した歴史資料を瞥見する限り、周辺農村に居住する商人集団の活躍の場としても、越後から到来するさまざまな諸商人の販路としても、小布施と中野がきわめて競合的な関係にあったことが予想されるからである。小布施市と中野市の比較研究を重点的に行うことにより、在方市と周辺農村との人びとが取り結んだ多様な関係を解明することを通じて、研究計画全体のまとめにつなげてゆきたい。
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