2015 Fiscal Year Research-status Report
日露戦後における軍隊の立地と遊廓をめぐる都市地域社会
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26370808
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Research Institution | Kobe Women's University |
Principal Investigator |
松下 孝昭 神戸女子大学, 文学部, 教授 (10278806)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 師団 / 旭川 / 遊廓 / 東京毎日新聞 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初の研究実施計画書に記していた収集対象史料のうち、遊廓新設反対同盟会日誌(旭川市中央図書館蔵)と当時の町長奥田千春の手記「事実考」(旭川市役所蔵)については昨年度中に収集を終えており、当時の新聞『北海タイムス』についても関連記事の検索と収集はほぼ終えた。当年度は他の地元紙である『小樽新聞』を閲覧し、当該問題に関する記事を収集した。これにて研究に必要とされる北海道関係の基本的な史料はほぼ収集を終えたことになる。 次に、旭川の問題が東京の言論界で反響を呼んだ背景を解明するため、この問題に最も精力的に取り組んだ『東京毎日新聞』をはじめ、『報知新聞』『時事新聞』『毎日電報』『都新聞』『東京朝日新聞』『日本』『人民新聞』『東京日日新聞』『国民新聞』『やまと新聞』『東京二六新聞』『中央新聞』『万朝報』『読売新聞』の各紙に目を通し、すべての紙面で旭川問題が取り上げられていることを確認したので、記事見出しの一覧表を作成した。これらの中には、従来の日本近代史研究ではほとんど知られていない新聞も含まれているだけに、貴重な成果になるものと期待している。 なお、同じ時期に軍隊と遊廓の問題が発生していた高崎、水戸、甲府、平、豊橋などの市町の状況も調査し、旭川の問題の比較対象とする当初の計画であった。それに従って当年度は甲府市の状況を詳しく調べた。ここでは関連する公文書等は発見できていないが、『峡中日報』『山梨日日新聞』『山梨民報』『甲斐新聞』の4つの地元紙に目を通し、状況を知ることができたので、論文に活かしていきたい。 こうした史料収集と併行して、崩し字で書かれているため解読が必要なものについては鋭意作業を進めており、ほぼ達成した。その結果、旭川町の遊廓新設反対派は必ずしも遊廓そのものに反対だったのではなく、町域外に立地して町税収入が減少することに反発していたという事実関係が浮き彫りになってきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記のとおり、北海道旭川に関する史料収集と解読作業、および在京新聞の記事検索は、4年間の研究期間の最初の2年で済ませたいとする当初の研究実施計画どおりに進展しており、順調であると言える。とりわけ「事実考」を初年度で収集できたことは、解読時間を充分に確保する意味では有意義であった。また、在京新聞の全紙に目を通す作業も時間を要するが、国立国会図書館新聞資料室でほとんど揃うので、効率的に作業を進めることができた。 なお、研究を続ける中で、旭川と同じ時期に函館でも遊廓の位置をめぐる問題が発生していることを知った。函館は小規模な部隊が駐屯している程度で、軍隊と遊廓の関わりが強いわけではない。その点では師団が立地する旭川とは大きな違いがあるが、新たに比較検討する対象が増えたと認識している。いずれ函館にも出向いて関係する史料を収集したい。 他に全国に目を向けると、当該期に師団所在地となった地点のうち、高田(現上越市)や岡山でも遊廓問題が発生しており、これらも比較の対象に加えるかどうかは検討中である。あまり手を拡げすぎると、研究が散漫になる可能性はある。ともあれ、このように研究途上で新たに加わってきた調査対象があることを加味しても、研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
史料の収集と解読作業は、上記のとおりおおむね終了したので、それを踏まえて論文の構成を練り、執筆していくことが今後の研究の主たる課題となる。 当初計画では、旭川町内で問題が発生した時点での状況を地域社会史の手法をとって一論文を作成し、後に東京の言論界で問題となる背景を分析することでもう一つ別論文を作成する予定であった。しかし、このように分割してしまっては、それぞれのインパクトが低下する可能性があると考えるようになり、全過程を通じて一つの論文に仕上げる方向に転換した。すなわち、1907年4月に旭川町で遊廓設置反対運動が生じ、6月にそれが東京で反響を呼ぶプロセスを一連のものとして捉えるのである。 こうした構想で論文執筆を進めつつ、比較検討の対象としている上記の他地域(函館、高田、岡山など)の状況も、できるだけ現地に赴いて調査を進める方針である。これらの地域で有意義な史料が発見されれば、執筆中の論文に盛り込んでいきたい。
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Causes of Carryover |
旅費を中心にしてなるべく当該年度に使用し終える予定であったが、国立国会図書館での複写料金は端数が生じるため、わずかばかりの金額を次年度に繰り越すことになってしまった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
資料調査に必要なデジタルカメラやデータを印刷するためのプリンターが旧式になってきているので、当年度の物品費で新しいものを備えたいと考えている。それに付随するインクなどの消耗品や資料整理用のファイルもあわせて購入する。それ以外は、北海道や東京での補充的な資料調査のための旅費として使用することが使途の中心となる。余裕があれば、比較検討のための新たな調査対象として浮上してきた函館や高田(現上越市)などにも赴いてみたい。なお、当年度も国立国会図書館での複写等を予定しているため、端数まで使い切るように心掛けたい。
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