2014 Fiscal Year Research-status Report
戦中・戦後の「報道写真」と撮影者の歴史学的研究-東方社カメラマンの軌跡-
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26370810
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Research Institution | The Institute of Politics and Economy |
Principal Investigator |
井上 祐子 公益財団法人政治経済研究所, その他部局等, 研究員 (80627753)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山辺 昌彦 公益財団法人政治経済研究所, その他部局等, 研究員 (90435545)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 報道写真 / 記録写真 / 東方社 / 空襲 / 東京空襲写真 |
Outline of Annual Research Achievements |
1元東方社社員の遺族7人に聞き取り調査を行い、戦中・戦後の彼らの活動などについて話を聞いた。当時の資料を保管されている遺族は少なかったが、林重男氏の遺族には、新たな資料を発見・提供していただき、デジタル化に着手した。多川精一氏の遺族には、東方社の制作物の実物等の資料を閲覧・撮影させていただいた。これらの聞き取り調査及び資料により、東方社研究を深められた。 東方社に関連して、警視庁カメラマンの石川光陽氏の資料(写真・文書)の整理を行い、両者を比較検討することで、それぞれの特徴を明らかにするとともに東京空襲についてより詳しい実態を明らかにすることができた。さらに、日本工房カメラマン小柳次一氏の資料調査を行い、戦争を語り継ぐ活動や米軍押収資料返還運動を推進した松浦総三氏の資料整理にも着手した。 2勉誠出版の提案により、『決定版東京空襲写真集』(2015年)の編集を行った。同写真集には、本共同研究で新たに発掘した写真も含め、東方社・日本写真公社・石川光陽氏の三者が撮影した東京空襲写真約1400枚を網羅的に収録した。編集作業の過程で、石川氏撮影写真については、撮影場所などについて従来の間違いを訂正し、東方社の菊池俊吉氏が撮影した写真の中から1945年3月10日の東京大空襲を地上で撮影した写真などを発見した。 また、出版記念特別展「戦後70年にふりかえる東京空襲写真展」を開催し(2015年2月25日~4月12日 於東京大空襲・戦災資料センター)、記念講演会(2015年2月28日 井上祐子・山辺昌彦・大堀宙)を行った。これらの活動により、東京空襲について知り、考えてもらう機会を作れた。また、写真集・特別展ともに新聞・雑誌・テレビ等、多くのメディアで取り上げられ、東京空襲の実態を広く社会に伝えることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
元東方社社員本人の死去や遺族の高齢化などにより、聞き取り調査・所蔵調査は、必ずしも順調には進まなかったが、7人の遺族に聞き取り調査・所蔵調査を行うことができた。林重男氏の遺族には、新たな写真ネガを発見・提供していただいた。写真ネガを自宅で所蔵していたのは、菊池俊吉・林重男両氏の遺族のみであったが、その他の遺族も皆、東方社についてはご存じであり、関連資料を見せていただくとともに戦中・戦後のカメラマンや社員たちの活動について話を聞くことができた。 聞き取りや関連資料も東方社研究にとっては有益なものであったが、撮影日誌など東方社やカメラマンの活動そのものを知ることができる資料は、未発掘に終わった。菊池氏の写真については、遺族の事情により、写真の収集・デジタル化が進まなかった。また、当初の予定にはなかった『決定版東京空襲写真集』の編集作業に時間をとられたこともあり、林重男・別所弥八郎両氏撮影のデジタル化済の写真資料の内容の確定、概要リストの作成にも遅れが生じている。 しかしながら、同写真集の編集に伴い、菊池・林両氏の遺族が保管していた東京空襲写真及び警視庁カメラマン石川光陽氏の遺族から提供された資料については、整理と内容分析を終えた。また、写真集の刊行により、東方社・日本写真公社・石川光陽氏の三者撮影の写真の比較検討、相互補完による東京空襲のより詳しい実態を解明するという課題は、前倒しで達成できた。 「反核・写真運動」については、調査・研究に着手できなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
元東方社社員本人の死去や遺族の高齢化及び資料の散逸により、聞き取り調査・所蔵調査及び資料収集は難航しているが、引き続き、東方社関係者の遺族や関連資料の所蔵機関について、調査を進め、資料の発掘に努める。平成26年度に新たに発掘・収集した写真ネガのデジタル化、デジタル化済の写真の内容の確定、写真概要リストの作成を進めて行く。内容の確定と分析については、当初の予定通り、空襲・防空に関連する写真を研究分担者の山辺昌彦氏に担当していただき、その他の写真については、暮らしや社会状況を捉えた写真を中心に研究代表者が行う。菊池俊吉氏の写真については、遺族と相談しながら、収集を進める。 日本工房カメラマン小柳次一氏の資料の整理を進めるとともに、小柳氏のような東方社・文化社の周辺にいた同業者や写真関連団体などにも調査対象を広げて資料を補い、両社を取りまいていた状況の解明に努め、東方社・文化社研究を深める。さらに松浦総三氏の資料の整理を進め、戦争を語り継ぐ運動と写真や東方社カメラマンたちとの関わり、米軍押収資料中の写真の返還状況などについても、研究を進める。 広島平和記念資料館や長崎原爆資料館と連絡をとり、両館に所蔵されている東方社カメラマン撮影の原爆被害写真の調査・研究を進めるとともに、「反核・写真運動」についてもご教示をいただいて、調査・研究を進める。 研究会を適宜開催し、写真内容確定の成果を確認しながら、内容の確定・分析の精度を高め、各写真群の歴史的意義及び各カメラマンの業績について議論を深める。
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