2015 Fiscal Year Research-status Report
中世東地中海史におけるマイノリティ・ネットワークの研究
Project/Area Number |
26370814
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
太田 敬子 北海道大学, 文学研究科, 教授 (40221824)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 東地中海 / マイノリティ / 東方キリスト教会 / ネットワーク / アルメニア人 / イスラーム社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度前半には、9世紀から十字軍が到来する11世紀末までのビザンツ帝国との境界領域を中心としたアッバース朝支配下のアルメニア人キリスト教徒とシリア人キリスト教徒の動向を時系列的に纏め、検討・分析した。その成果として現在のトルコ東部で発見された『シイルトの年代記』に現されている、9世紀のネストリウス派キリスト教徒の動向を研究した論文「ナジュラーンの安全保障契約を巡る諸問題(3)-ムハンマドの契約書の借用と展開」を『北海道大学文学研究科紀要』147に発表した((1)(2)は初期イスラーム時代を中心に研究したもの)。 27年度の後半においては、ファーティマ朝後期に輩出したアルメニア人宰相について多言語史料に基づいて検討し、ファーティマ朝史におけるアルメニア人ネットワークの影響について分析と考察を行った。まず、彼らの軍人としての登用の経緯、アルメニア人軍団の役割と政治的影響力を分析し、その頂点に立つ宰相の政治・軍事面での活動のみならず、文化的影響力についても分析を進めた。それらの分析に基づきイスラーム社会におけるマイノリティの政治・社会進出について考察を行うと共に、それを支えたと考えられるアルメニア人ネットワークの実態と特徴を文献学的に跡づけた。さらに、2016年2月28日から3月12日にかけてエジプト出張を行い、カイロ市内とナイル川中上流域におけるファーティマ朝時代のアルメニア人宰相に関連する歴史的遺構とコプト教会関連史跡の現地調査を行い、文献資料の補足及び比較研究に有用なデータを収集した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アルメニア人キリスト教徒に関する論文は史料収集の限界のために発表できなかったが、『シイルトの年代記』で発見したネストリウス派キリスト教徒の記録に基づき、論文を発表することができたことは一定の評価に値すると考える。前年度は研究代表者の体調不良のため、海外出張による現地調査を遂行できなかったが、本年度はエジプトにおける現地調査でファーティマ朝時代のアルメニア人キリスト教徒のエジプトにおける動向とムスリム支配下のコプト教徒に関する多くの情報を得ることができた。それらは今後の研究の進展に大きく貢献すると考える。尚、エジプト調査を優先させたのは政情によっては再び現地調査に大幅な制限がかかる可能性が強いからである。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成28年度前半には、前年度までに構築した文献研究によるデータベースとエジプト調査から得た情報を比較検討する。また、現在の状況から勘案してトルコ共和国東部における史料収集及び現地調査は困難であると考えられるので、代わりにイスラエルで十字軍時代のキリスト教徒遺構と、マイノリティ・ネットワークの地政的要となる港湾都市の調査を行う。併せてヴァチカン図書館及び大英図書館においても最終的文献調査を行う。それらに基づき、平成28年度後半に、アッバース朝期からファーティマ朝期にかけてのアルメニア人ネットワークの実態とイスラーム社会における彼らの影響力を検討・分析し、さらにエジプトやシリアにおける他のマイノリティ・キリスト教徒の事例と比較検討を行い、東地中海域におけるマイノリティ・ネットワークに関する包括的考察を行う。その成果を口頭発表もしくは論文として発表する。また、イスラーム世界におけるアルメニア人キリスト教徒について学生及び一般読者を対象とした著書を発表する準備を進める。
|
Causes of Carryover |
平成26年度、研究代表者体調不良のため繰越金が生じた。本年度は海外出張にその分を支出する予定であったが、国際情勢悪化のためにトルコ共和国及びアルメニア共和国に予定していた海外調査を行うことができなかったので、その分繰越金として次年度研究に役立てることになった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
海外出張による現地調査としてイスラエル旅行を予定している。併せてヴァチカン図書館及び大英図書館においても最終的文献調査を行うため、海外出張費として主に支出することを予定している。
|