2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26370834
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
工藤 元男 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (60225167)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 上博楚簡 / 昭王毀室篇 / 君人者何必安哉篇 / 命篇 / 令尹 / 左尹 / 包山楚簡 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は上博楚簡の楚王故事の中の「昭王毀室」篇を再検討し、併せて同「君人者何必安哉」篇、同「命」篇を検討した。「昭王」篇については、すでに小論「具注暦の淵源―「日書」・「視日」・「質日」の間―」(『東洋史研究』第72巻第2号、2013年)において基本的に検討しているが、その中に見える「視日」(楚王の近習官)がさらに上博楚簡の「君人者」篇と「命」篇にも見えるため、三者を含めた「視日」像を再検証した。その検討結果は以下の通りである。 「視日」が実在した史料として確認できるものは、包山楚簡の文書類、江陵磚瓦廠楚簡などの一次史料の「司法簡」であり、そのなかで「視日」は訴状を受け取り、審理の責任者に対して迅速な判決を命ずるなど、裁判に深く関わる存在だったことが確認される。これに対して「昭王」篇に登場する「視日」は、同じように楚王に近習して訴えを取り次ぐ者として登場するが、その史料的性質は昭王の善政の美談を伝える二次史料としての「作品」とみなされ、それは包山楚簡などから知られる実在の「視日」像を反映したものと思われる。また「君人者」篇に登場し、楚王との面会を取り次ぐ「視日」も、基本的には「昭王」篇の「視日」と同じ性質である。ところが、「命」篇にみえる「視日」は、これらとは異なり、令尹(楚の宰相)の尊称となっている。「命」篇も二次史料としての「作品」であるが、ただその中で「視日」を令尹の尊称としているのは、歴史的な背景があると思われる。包山楚簡の文書類では訴状を受け取るなど裁判に深く関与している実務者として左尹(司法官)がおり、この者は包山楚簡の中で「視日」を呼ばれている。左尹は令尹より地位は低いが、楚国における地位は高く、令尹に次ぐ地位とみなされる。そのようなことが「視日」を令尹の尊称とする背景にあると想定した。それは楚簡の楚王故事の史料的性格を検証するための第一歩の作業である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
楚簡にみえる楚王故事がどの程度「楚史」の「史実」を体現しているかを検証する上で、一次史料である戦国楚簡「司法簡」として注目される包山楚簡の文書類、及び江陵磚瓦廠楚簡の分析が重要である。両者の史料に登場する「視日」という職務の性格を比較分析することは、そのリトマス試験紙的な材料となると考えられる。当該年度の研究はそれを明らかにするため、それらの史料に登場する「視日」関連の史料の体例分析を行い、包山楚簡から上博楚簡「命」編に至るまの「視日」の性質の変化を析出した。それは本研究の全体にわたる第一歩の成果といえる。これを基礎にして、楚王故事の分析を行って行く。ただし、当初目論んだ楚簡の楚王故事の訳注作業はやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、今後も基礎作業として楚王故事の訳注を継続してゆくが、それと共に、それらを近年発見された楚簡の清華簡の「楚居」・「繋年」、および伝世文献の『史記』楚世家、『国語』楚語、『左伝』、『呂氏春秋』などと比較し、各種の楚王故事のそれぞれの史料系統を分析してゆく。「楚居」や「繋年」は楚王故事とは性格が異なる史料で、むしろ「史」に近いものであるが、これを縦糸にして、それに楚王故事を横糸に組み込んで、それを伝世文献と比較することで、楚簡の楚王故事がどのような史料系統になっているのかを検証する予定である。この作業によって、伝世文献の編者がどのようにして故事の類をそのテキストの中に編入していったか、という編集課程の一端を解明されることが期待される。
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Research Products
(5 results)