2016 Fiscal Year Research-status Report
前近代社会における人の識別について―コンバウン王国を事例に―
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26370838
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Research Institution | Aichi University |
Principal Investigator |
伊東 利勝 愛知大学, 文学部, 教授 (60148228)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 前近代の人種観 / 近代の民族観 / コンバウン時代 |
Outline of Annual Research Achievements |
エーヤーワディー流域地方における18世紀から19世紀にかけての村落社会における「人種」の扱われ方を考察するため,前年度における「人種」の表象に関する研究の補充,および村落社会内における「異人種」混在や,アフムダーンと他の階層との関係を明らかにする史料を発掘すべく,関係文書の収集及びそのデジタル化を行った。 モンユワ,シュエボー周辺における窟院壁画を再調査では,ザガイン県のユワーティヂー村にあるフラウンウーモー経蔵の壁画に含まれるジャータカ第538話のマハージャナカ難破の図に,異人が描かれていることを確認した。また,ザガインのティーローカ窟院の壁画には,異人の姿が残されていないこと,モンユワ町区のアミン村にあるミンイエパヤー境内南東隅にある窟院に101人種図が描かれていたものがすべて剥落してしまっていることを確認した。さらにアネイン村窟院群の中にある103号窟院に,剥落寸前ではあるが101人種図が描かれているのを新たに発見した。 コンバウン時代のアフムダーンに関する借金証文,上奏文や裁判録の写し等に関する地方文書パラバイのデジタル史料1511点を収集した。同時に,王国時代におけるムスリム官吏の任用実態についての文書調査を行い,コンバウン時代には,ムスリムは一つの人種と考えられたいたこと,及び軍人や地方官に採用されていたのみならず,文人のムスリムも活躍し,彼らの残した典籍やマンダレー王都内にその墓地も存在することを確認し,前近代社会においては,ムスリムということで差別待遇をうけることはなかったことが明らかになった。また現在のビルマ人仏教徒は,墓地を居住区域内に設けることについて禁忌するが,当時からこのことは異教徒には適用していなかったこともあわせて明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
村落社会内における「異人種」混在や,アフムダーンと他の階層との関係を明らかにする史料の収集はある程度達成できたが,勅令や上奏文,国務院裁定録,とりわけ地方レベルでの裁判録や借金証文などの中にあらわれる「人種」という言葉の持つ意味の解明に関する現地調査と文書史料の読み込み及びその分析が,大学内での業務との関係で十分行いえなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の検討結果を踏まえ,18世紀後半から19世紀前半のコンバウン王国で使用された「人種」という言葉と,社会の構成原理との関係の考察を引き続き行う。具体的には,実際の行政施策のなかでの人の区別・差別の様相について,特にムスリムや地方村落コミュニティのなかでのアフムダーン(王務員)の処遇を検討する。 地方の村落に定住し,王室権力を直接支えたアフムダーンには戦争捕虜として周辺各地から連行されてきた異「人種」が数多く含まれており,村落社会はさまざまな「人種」の混住する場であった。勅令や上奏文,国務院裁定録などで明らかになるのは主としてアフムダーンと王室との関係に限られるが,地方レベルでの裁判録や借金証文にはアフムダーン間のみならず他の階層の住民との関係が扱われており,これを分析することにより異「人種」の社会的位置づけが明らかになり,「人種」概念がどのように作用していたかを知る事が出来る。 こうして最終的に,当時のコミュニティ社会における「人種」の機能を,社会構造の解明と合わせて明らかにし,「人種」が近代以降の「民族」と如何なる関係に立つのかを検討する。
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Causes of Carryover |
村落社会内における「異人種」混在や,アフムダーンと他の階層との関係を明らかにする史料の収集はある程度達成できたが,勅令や上奏文,国務院裁定録,とりわけ地方レベルでの裁判録や借金証文などの中にあらわれる「人種」という言葉の持つ意味の解明に関する現地調査が,大学内での業務との関係で十分行いえなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
アフムダーンに関する地方文書史料を収集すべく,ミャンマーでの史料調査を行う。あわせてコンバウン時代のムスリムに関する遺跡や文献史料の調査も行い,その成果を論文にまとめ,発表する。
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