2016 Fiscal Year Research-status Report
「ハディースの徒」の社会史的研究:スンナ派の形成・浸透過程の解明に向けて
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26370840
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
森山 央朗 同志社大学, 神学部, 准教授 (60707165)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ハディース / ハディースの徒 / スンナ派 / 社会史 / 西アジア / ムスリム社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度から5カ年計画で遂行している本研究は、スンナ派の形成と浸透の歴史過程を明らかにすることに向けて、10~13世紀の西アジアで「ハディース(預言者ムハンマドの言行に関する伝承)の徒」と称し、ハディースを用いて、社会の様々な事柄をスンナ(預言者ムハンマドの慣行)に根拠づけたハディース学者の知的実践を社会史的に解明することを目的としている。本研究では、この目的に向けて、以下の三つの課題を設定した。すなわち、【課題1:「ハディースの徒」の時代的・地理的分布の傾向の整理】、【課題2:ハディース真正性判定理論の形成・展開の解明】、【課題3:「ハディースの徒」の知的実践と社会状況の相互影響の解明】である。 平成28年度は、27年度までに達成された【課題1】と【課題2】の成果の整理と再検討を行いつつ、28年8月から29年3月にかけて、それまでに収集したアラビア語写本史料を中心に、10世紀から13世紀にかけて西アジアで活躍した「ハディースの徒」の著作の読解を進めた。その結果、「ハディースの徒」がハディースとその関連知識をめぐる知的実践をとおして産み出した著作の全容をほぼ把握するという成果を得た。現在は、その成果をデータベースに整理する作業に取りかかるとともに、【課題3】の研究材料として適切な史料の選定を開始したところである。 以上の研究作業の一環として、28年8月と29年2月に、ロンドンの大英図書館に於いて補足的なアラビア語写本調査を行った。これは、当初の計画で予定していたチュニジアでの調査を、現地の治安に不安があったために振り替えたものである。なお、27年度終了時に検討していたイランでの調査およびムスリム研究者との意見交換については、別の研究プロジェクトの経費で行うことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度に中心的に取り組んだ研究作業(「研究実績の概要」を参照)は、計画段階で予定していたものであり、その成果も計画段階での予測と概ね一致した。したがって、本研究はほぼ順調に進展していると判断される。また、ムスリム研究者との意見交換などをおとおして「オリエンタリズム的」になることを避ける工夫に関しては、ロンドンとイランにおける史料調査の際に、ロンドン中央モスクを訪問し、テヘラン大学イスラーム神学部のモジュタバ・ズルヴァーニー准教授との意見交換を行った。 成果公開の側面においては、28年12月に韓国中東学会主催の国際会議に招待され、本研究の成果を口頭で発表し、韓国やイランの研究者と議論を行った。また、宗教学研究者との共著書の中で、本研究の成果を活用してイスラーム史における奴隷に関する1章を執筆した。27年度に引き続いて参加した日本国際問題研究所の現代中東研究プロジェクト、『中東情勢・新地域秩序』においても、本研究の成果を活用してムスリム社会における宗教的動員に関する研究発表を行った。 他方、【課題1】と【課題2】に関する研究成果を英語論文として発表する作業については、28年度の研究作業をとおして史料を読み込んでいくうちに、本研究全体の成果をある程度見通した上で、各論文の切り分けと内容を熟慮した方がよりインパクトのある論文になるとの判断から、29年度に持ち越すこととした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、当初の計画にしたがって、【課題3】に関わる研究作業を中心的に遂行する。28年度に読解した「ハディースの徒」の著作について、それらの主題・構成・形式・内容をデータベースに整理し、その中から【課題3】の達成に適切な作品を選定した上で、それらの作品が、どのようなハディース学の理論をどのように用い、成立当時の社会や政治の状況をどのように反映し、ハディース学者の知的実践の中でどのように評価され、周囲のムスリム社会にどのように受容されたのかを分析していく。この分析から予測される成果は、次の2点である。(1)10世紀から13世紀にかけて西アジアの各地で活動した「ハディースの徒」が、10世紀後半のホラーサーンで提起されたハディース真正性判定理論を発展させつつ柔軟に活用し、社会や政治が要請する様々な事柄をスンナに根拠付けて肯定的に評価していく姿が描き出されることと、(2)ハディースの権威を維持するために理論を固定化していくことで、13世紀後半にかけて「ハディースの徒」の活動が停滞していくことである。 成果発表の側面では、【課題1】と【課題2】に関する研究成果を英語論文として発表する作業を続ける。30年度には、ホームページを作成して、これまでに構築したデータベースをそこに公開する。 また、本研究を基課題として、平成28年度第8回国際共同研究加速金(国際共同研究強化)(16KK0043)の交付内定を得たので、30年度に予定していた本研究全体のとりまとめを、ジョージタウン大学(ワシントンDC)とテヘラン大学における国際共同研究として行うこととし、29年度にはその準備も行う。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主な理由は、「人件費・謝金」の使用額が、2万8260円にとどまったためである。平成28年度の「人件費・謝金」は、当初予算の15万円に27年度に発生した次年度使用額から5万円を加えた金額20万円を、データベースに関する作業を補助する研究協力者への謝金として使用する予定であった。しかし、実際に作業を進めたところ、27年度中に作業ルーチンを確立して研究協力者に委託した作業は28年度の前半で完了した。それ以降のデータベースに関わる作業は、研究代表者の研究作業と深く関わっていたため、代表者本人が行い、研究協力者に委託することがなかった。また、写本史料の複写費として、「その他」の経費に、当初予算の5万円に27年度に発生した次年度使用額から5万円程度を加えていたが、28年度に行った補足的な写本調査では写本複写費が発生しなかった。このことも、次年度使用額が生じた理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
29年度は、これまでの研究成果を英語論文にまとめて、適当な学術雑誌に投稿する予定である。そのためには、英文校閲者に対する謝金が必要となるので、次年度使用額23万6656円のうち、12万円程度を「人件費・謝金」に加えてこれに充てる。また、引き続き海外での調査を行う予定であるため、11万円程度を「旅費」に加えて使用する。
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Research Products
(2 results)