2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26370850
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
橋場 弦 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (10212135)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 民主政 / アテナイ / ギリシア / 和解 / 調停 / 紛争解決 / 社会統合 / ソロン |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に引き続き、平成27年度においては、古代ギリシア人の紛争解決と和解と調停の諸相について、近年の研究動向把握、および基礎的史料の網羅的収集および分析に努めた。古代ギリシア人にとってホメロス以来の普遍的課題である紛争解決と和解は、とくに前7世紀後半以降先鋭化してゆくポリスの政治的内紛(スタシス)にたいし、各ポリスがそれぞれどのように対処していったかという文脈で考察されねばならない。個人や地域・血縁の利害関係を超越して、ポリスの国家統合を優先する立場からの言説がポリス市民のなかに現れるのは、前7世紀後半以降のことであり、とくに例外的に広い領土と人口を有し、その分、国家統合のプロセスが遅れたアテナイにあっては、前594年に調停者を務めたソロンの改革をまたねばならなかった。ソロンの政治詩は、市民の私的な利害関係を超えて、貴族対平民のスタシスを沈静化する立場から両派に政治的呼びかけの効果を期待して歌われたものであり、その思想的革新性は、近年公刊された仲手川良雄『古代ギリシアにおける自由と社会』(創文社、2014年)において指摘されるとおりである。しかしながら問題は、ソロンの思想的革新性が、現実のポリスの政治的状況を根本的に変革して国家統合を完成するに至らず、アテナイが民主政という形で社会の和解と調停に一定の成果を踏み出すにはなお一世紀近い時間が必要だったという事実である。その問題を照射するためには、アテナイにおいて政治的エリート層が旧来の門閥貴族からどのように変貌してゆき、最終的に民主政に適合的な姿に適応していったのかという社会政治的プロセスを明らかにする必要がある。そのため今年度末には、ロンドン大学古典学研究所・ケンブリッジ大学図書館などに出張して関連研究動向の把握に努め、またP.J. Rhodes, P. Cartledgeら海外研究者との意見交換に努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初分析対象としていた史料群、すなわち歴史書・叙情詩などの叙述史料については、分析と考察が予想以上に進み、さらに海外調査によって碑文史料の解析が予想以上に進んだこと。
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Strategy for Future Research Activity |
おおむね今後も計画通りに推進してよいものと思われる。
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Causes of Carryover |
当該年度において、当初はギリシャ共和国での遺跡調査・碑文調査および現地研究者との研究打ち合わせのための海外出張旅費の支出を見込んでいた。しかるにユーロ危機およびチプラス政権登場以降、同国の経済状況・政治状況がますます悪化の一途をたどり、治安の悪化も報告され、アテネ碑文博物館の管理体制もかつてのように良好ではなくなったとの報に接したため、同国の政情が安定するまでギリシャ共和国への海外出張およびそのための旅費の支出を見合わせるに至ったのである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度においては本来計画していたギリシャ共和国への遺跡調査・碑文調査および現地研究者との研究打ち合わせのための海外出張を、同国の政治情勢の安定を見計らった上で、安全に実行する予定である。ただし同国の社会情勢、および碑文博物館側との打ち合わせの結果次第によって、安全を最優先するという立場から、若干の行き先変更などの計画変更は見込まれる。
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