2016 Fiscal Year Annual Research Report
Reconciliation and arbitration in ancient Greece
Project/Area Number |
26370850
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
橋場 弦 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (10212135)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 和解 / 調停 / ギリシア / ポリス / 内乱 / 他者性 / 古代 / 都市 |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度においては、これまでの史料調査・研究文献探査の成果を総合し、古代ギリシア国家の内乱(スタシス)において、なぜ和解と調停が可能であったのか、という根本的な問いに、最終的な解答を与えることに研究の主眼を置いた。具体的には、まず伝アリストテレス『アテナイ人の国制』29章から40章の記述の再解釈をつうじて、前410年の400人政権による民主政転覆とその失敗、および前404年の30人政権によるクーデターという一連の内乱の事実経緯を明らかにすることを目標にした。次に30人政権がまもなく帰国した民主派との内戦に敗れ、エレウシスに退いた後、前403年の民主政再建に至るまでのクロノロジーを整理し、和解と調停が成功した理由と背景の探究を行った。そして最終的に、和解はアテナイ市民の両方の党派、すなわち民主派と寡頭派だけでは成立し得ず、そこでは第三者としてのスパルタ勢力の仲介と調停の作用が決定的な役割を果たしていたという側面を明らかにすることができた。従来の研究史では、スパルタ王パウサニアスおよびその率いる駐屯軍、さらにあとから王が本国から呼び寄せた10人の「仲裁委員」の役割は、30人政権がスパルタの後押しを得て成立した事情から、和解の成立に関してはあまり積極的に評価されてこなかった。しかし、派閥の二項対立によってもたらされる膠着状態を打開するため「他者」を外部から呼び寄せ、調停にあたらせるという方法は、ギリシアの国際政治にあってはむしろ伝統的なものであることが近年の研究から明らかにされており、それは悲劇などの文学作品からも、ギリシア人の心性に適合的であったことが証明されている。このように、本研究では、スタシスがギリシア都市国家の宿痾であるのと同じ程度に、「他者性」による和解と調停という手法もまたギリシア人の伝統的解決法であったことを明らかにした。
|
Research Products
(7 results)