2015 Fiscal Year Research-status Report
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26370856
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
皆川 卓 山梨大学, 総合研究部, 教授 (90456492)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 占領軍 / 管区都市 / コムーネ / 軍税 / 協定文書 / 外交権 / 領邦国制 / イタリア帝国封 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度における史料収集の遅れを受けて、年度前半は三十年戦争期のドイツ及び大同盟戦争期のイタリアでの占領政策に関する公刊史料・二次文献の収集と解読に努めた。皇帝軍によるヴュルテンベルク公国占領のケースについては、領邦都市レオンベルクの地域史研究が充実しており、そこから占領軍と現地社団の交渉を分析した。その結果、ここでは占領国による軍政から文民統治への移行が早かったために、社団が外交実績を権利として認識するに至らなかったことが判明した。一方25年度末に現地専門家との意見交換で教示されたホーエンローエ伯領については、クラインハーゲンブロックの研究から、君主亡命中の行政府がカトリックの占領軍との間で直接交渉を展開する中、ルター派信仰を核とする領邦意識が行政府と臣民を結束させ、占領軍と協定文書を取り交わし、自己を君主個人とは別個の外交主体として認識する傾向がみられた。8月にはこの結果を更に一般化するため、第三のケースとして戦中は「ハイルブロン同盟」及びプロテスタント諸侯団、戦後はフランケン・クライスの一員として他の領邦と集団的外交権を行使するフライヘル領ガイルスドルフの史料を収集し、インデックスを作成した。一方イタリアについては、同じ8月にパルマ国立文書館を訪れ、大同盟戦争・スペイン継承戦争期のパルマ公国の占領に関する文書を調査した。この史料については概要把握の上インデックスの作成を終了している。またパルマと対称的にハプスブルク占領期に外交権を喪失し、その領邦ミラノに併合されたゴンザーガ諸侯国についても、すでに26年度に明らかにした占領期の過程分析を超えて、18世紀にフランス、スペインによる占領の危機が生じた折に、再び外交権の回復を目指す動きが現地社団から生じたことを示す文書の存在を、ウィーン帝室宮廷国立文書館の索引から把握した。以上により研究は着実に進行している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
占領軍と現地社団の関係を調査した例のうちヴュルテンベルクについては、調査管区の中心であるレオンベルクの都市参事会と皇帝軍の間で、1634年以降軍税や宿営とその軋轢に関する直接交渉が見いだされ、外交の萌芽が確認できた。しかし同国における軍の直接支配は短期間で、早々に皇帝により設置された行政府の支配に移行したため、社団と占領軍の間に協定文書が成立しないまま社団と行政府の交渉となり、その結果君主・社団間の伝統的領邦国制が復活し、社団が占領軍との交渉実績を外交権として認識するには至らなかったという結論に至った。領邦君主が封主(皇帝)の制約を受けるヴュルテンベルクの外交権が、文民統治による占領軍と社団との関係の切断に起因することが、これによって裏付けられる。一方被占領国の官僚団が堅固な結束を保ち、占領軍と直接交渉を展開する中で、宗派を核として臣民を統合し、諸外国と活発な外交を展開したホーエンローエの例は、占領が「宗派化」を介して君主個人から自立した国家的外交権を促したことを示しており、社団自身が占領軍に相対する関係が前者の外交権の樹立に反映された例となる。最後に調査中のガイルスドルフについては、インデックスから同領の君主が近隣領邦との同盟を通じて占領軍と軍税その他の交渉に当たっていることが確認できた。一方パルマについては、史料のインデックスを作成した結果、皇帝軍はパルマ公国に広く展開しつつも、占領軍とコムーネの直接交渉実績は乏しく、占領軍との交渉はパルマ公政府が一括して、皇帝および司令官と行っていたことが判明した。それが可能であった理由は、データベースの概要から、パルマ公国政府がウィーン駐在使節をはじめ、各国外交中枢との濃密なコミュニケーション網を持ち、それを通じて軍と社団の円滑な調整をなし得たという理由が推定可能で、そのために史料解読を進めている途上にある。
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Strategy for Future Research Activity |
ドイツにおいては史料解読への慣れもあって、社団と外交権成立の関係について多くの類型が掌握可能になっている。しかしこれまでの例は史料解読が未了で「集団的外交権」の構造を完全に解明し切れていないガイルスドルフも含め、三十年戦争期の西南部・中部ドイツに限られており、帝国のドイツ語圏を見渡すにはなお不足である。そのため三十年戦争後に武力でオランダの占領を解除した北ドイツのミュンスター司教領国において、領邦君主、社団(領邦等族、管区・共同体)、オランダ占領軍の関係を示す公刊史料(インデックス付)を入手し、近々その解読を始める予定である。一方ドイツ諸邦ほど全体の把握ができていないイタリア帝国封(「帝国イタリア」)については、データベース化の終了したパルマの文書を詳細に読み解き、外交権が吸収されなかった詳細な背景を明らかにする作業を遂行する(ただし暗号文書が若干あるので、内容の解読に難渋する可能性もある)と共に、ゴンザーガ諸侯国、とりわけその中核であるマントヴァ公国について、併合後にコムーネが模索した外交権復活の動きを把握するため、今年度の初夏にウィーン帝室宮廷国立文書館で調査を行う。なお今年度は勤務校で複数の管理実務職を兼帯し、時間の配分を誤ると研究課題目的を達成しえない恐れがあるため、綿密にスケジュールを組んで研究を遂行し、少なくとも科研費が終了する平成28年度末から数ヶ月の間には、論文を通じて17世紀神聖ローマ帝国地域における外交権の発展を、各国の社団的構造と関連づけて提示するところにまでこぎ着けたい。またこれをベースとして将来的には、「ウェストファリア神話」の脱構築以降位置づけが流動的になりつつある近世中部ヨーロッパ諸国の「外交権」の特質を浮き彫りにし、「国家理性」に基づくとされる近代的外交権にどう接続するかを解明する研究費プロジェクトを立ち上げることを目指す。
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Causes of Carryover |
諸般の事情により、本科研費研究においては2回の予定であった調査渡航を1回しか実施することができず、また予定していたよりも短期間しか渡航することができなかったこと、原油価格の下落による燃油サーチャージの見込額が大幅に減ったことなどから、次年度使用額が生じた。ただし計画時には想定していなかった情報オンライン化の整備、特に日進月歩で進捗するヨーロッパ側の文書館、大学によるデータベース完成、公表を利用して、渡航中に極力効率的に情報収集、情報交換に当たったことから、研究上の障害をある程度防ぐことができた。そのため研究の進捗の遅れはさほど生じていない。とはいえ逆に研究開始以降の送り手によるデータベース、オンライン化の充実により、当初予定していたよりも多くの情報を収集し、より一般的、説得的な研究結果を導く可能性が生まれている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
申請当初から平成27年度に必要十分な渡航ができなかった場合、平成28年度に渡航を延期して実施するとした計画に従い、調査予定であった史料の収集のため海外渡航を行う。当初はドイツ側の占領に関する地方史料の収集のため、占領を受けたドイツの州立文書館の調査を計画していたが、この間に二次文献の調査を通じて被占領側の政府および社団の対応についての情報が十分蓄積されたため、対する占領軍側の対応についての情報の充実が必要となった。そこで平成28年夏期に主たる占領国である神聖ローマ皇帝側の史料拠点であるウィーンの帝室宮廷国立文書館、戦争文書館を調査する。またイタリアの被占領国の状況をさらに充実させるために、マントヴァ国立文書館において外交権喪失・併合の代表例であるマントヴァ公国の例を調査する。以上の渡航と、最終年の総括のために要する文献類の購入により、繰り越した額が研究計画に従って使用される予定である。
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[Book] Communities and Conflicts in the Alps from the Late Middle Ages to Early Modernity2015
Author(s)
M. Bellabarba, H.Obermair, H.Sato(ed.), Y.Hattori, L.Provero, T.Minagawa, E.Curzel, C.Taviani, M. Della Misericordia, V.Lavenia, K.Occhi, M.Bonazza, A.Paris, T.Tanaka
Total Pages
251(73-90)
Publisher
Mulino(Bologna)/Duncker&Humboldt(Berlin)
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