2015 Fiscal Year Research-status Report
プロテスタンティズムの倫理と贈与主義の精神-財団と宗派化の学際的研究-
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26370865
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
佐々木 博光 大阪府立大学, 人間社会学部, 准教授 (80222008)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 財団 / 助成金 / 救貧 / 利息 / 慈善 / 追悼説教 / 遺言 / 改革派 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヨーロッパの財団社会への移行期である近世について、財団の胎動を宗派別に考察するのが本研究の目的である。初年度はルター派のブラウンシュヴァイク公国の財団史と取り組んだ。今年度は改革派のバーゼル州の財団史と取り組むために8月と3月に渡航し、バーゼル大学歴史学研究室のお世話でそれぞれ1か月ずつ二度現地史料調査に従事することができた。 筆者の研究は単に過去の財団を掘り起こすだけではく、創始者のそれにかけた情熱、モティベーションを考察するのが狙いである。そのためには創始者の個人情報が記載された史料が不可欠である。この点で前近代において最も期待できる史料は追悼説教である。バーゼルは改革派地域では珍しく追悼説教が豊富に残っていることで知られる。調査地にバーゼルを選んだのはこのためである。 バーゼルでも近世にはすでに財団の存在は日常風景と化していた。種目としては就学を支援する助成財団と社会的弱者を保護する福祉財団があった。助成財団は国際的な名声を博したバーゼル大学のお膝元だけあってさすがに充実していた。わが国ではほとんど注目されることがなかったが、ヨーロッパでは就学助成の制度が早くから発達していた。それを抜きにしては教育史を語りえないほどの重みを有するものであった。「研究教育の自由」という理想を根幹に置いたわが国のヨーロッパ大学史の記述を根底から問い直すインパクトをこの問題は秘めている。バーゼルで得た助成財団に関する史料からこの領域に切り込んでみたい。助成内容や設立趣旨の変遷をたどることで、ヨーロッパ大学史・教育史を裏側から把握できるのではないかと期待している。 助成財団か福祉財団かを問わず財団創始者の追悼説教も徐々に集まりつつある。彼らの財団設立のモティベーションについて意味のある結論を引き出すためには、さらに財団創始者に捧げられた追悼説教の収集を続けなければならない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
最初に取り組んだルター派のブラウンシュヴァイク公国についてすでに史料調査を終え、日本語の論稿を査読付きの雑誌に投稿できた。さらに現地の地域史誌編集者の要請で成果をドイツ語でも執筆中である。小冊子にまとめることを目指している。 今年度はあらたに調査を始めたバーゼルの財団史研究が軌道に乗り始めた。改革派地域の財団史研究になるが、ルター派地域との比較で興味深い比較研究ができそうである。バーゼルの代表的な地域史誌Basler Zeitschrift fuer Geschichte und Altertumkundeの現編集長ハンス・ベルナー博士Dr. Hans Bernerから成果の寄稿を内々に依頼された。またバーゼル市公文書館Staatsarchiv Basel-Stadt館長のエスター・バウアー氏Ester Baurから、現在筆者が営為翻刻中の手稿史料のデジタル化の意向を打診されてもいる。研究はいたって順調で、受け入れ教官であるバーゼル大学歴史学科のズザンナ・ブルクハルツ教授Prof. Dr. Susanna Burghartzからは招待講演の依頼を受けている。さらにバーゼル大学慈善研究センターCenter for Philanthropy Studiesのセンター長を務めるゲオルク・フォン・シュヌールバイン教授Prof. Dr. Georg von Schnurbeinは、当方の研究計画に多大な関心を示してくださり、現在当方の研究を支援するために様々な可能性を探ってくださっている。 バーゼルの研究を始めたことで、ルター派地域についても大学都市の財団史を研究する必要を感じ始めている。古くから大学があったエアフルト市につぎの狙いを定め、現地研究機関と営為交渉中である。カトリック圏の財団史研究についてまったく調査に着手できずにいる。早めに候補地を選定し、研究に取り掛かりたい。
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Strategy for Future Research Activity |
バーゼルで着手した財団史研究のめどを立てるのが最初の課題である。夏の授業休止期間に再度渡航し、史料調査を継続する予定である。最初に調査したブラウンシュヴァイク公国では、追悼説教は近世特有の史料であり、19世紀に入るとその数は急速に激減する。一方バーゼルでは追悼説教の伝統は久しく続き、20世紀に入っても史料は相当数残存する。もちろん近代の追悼説教には近世の追悼説教に見られた宗教色が薄れる。以前の追悼説教と同等に扱うことはできないが、近代の追悼説教に見られる慈善の記述はやはり興味尽きないテーマであり、財団設立のモティベーションの変遷を明らかにすることができれば筆者の研究課題にとっても有意義である。思い切って近世という時代の制約をはずし、近代の財団にも考察の手を伸ばしてみたい。すでに先方の研究諸機関(バーゼル大学歴史学科、バーゼル市公文書館、バーゼル大学大学図書館)からは、これまで通り当方の研究調査に各種の便宜を図ってもらうことを約束されている。 バーゼルは大学都市である。ルター派のブラウンシュヴァイク公国と比較するために改革派のバーゼルを選んだが、宗派以外の条件があまりにも違いすぎる。ルター派の大学都市を新たに考察対象としたい。候補としてエアフルトを予定している。「ゴータ研究図書館」Forschungsbibliothek Gothaが地域の研究拠点であり、追悼説教を豊富に所蔵する。ゴータ研究図書館と連絡を取り、本研究課題にとってエアフルトの調査が有望かどうかを確かめたい。 最後にカトリック圏の近世財団史の調査については、バーゼルで研究した地の利を生かし、スイスのカトリック地域について研究の可能性を探ってみたい。まずは候補地の選定が大切である。そのためにはバーゼルでの一層の情報収集が不可欠になる。早期に候補地を絞り込み、研究に着手したい。
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Research Products
(2 results)