2015 Fiscal Year Research-status Report
英領ジャマイカの4砂糖農園における黒人奴隷人口の比較研究
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26370868
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Research Institution | Saitama Gakuen University |
Principal Investigator |
伊藤 栄晃 埼玉学園大学, 人間学部, 教授 (60213071)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 西インド諸島 / ブリストル / ネイヴィス島 / ピニー家文書 / 砂糖プランテーション / アフリカ人奴隷 / クレオール |
Outline of Annual Research Achievements |
文献研究として、西インド諸島プランテーションと奴隷制に関する英文研究書30冊、ならびに学術雑誌論稿コピー16編を入手し批判的検討を行った。また原史料調査として2015年8月23日から9月9日まで英国ブリストルに滞在し、ブリストル大学附属Arts&Social Sciences Libraryの特殊資料室(Special Collections)にて調査した。 この調査のとくに大きな成果はネイヴィス島の砂糖プランターでブリストル商人だったピニー家文書を見出したこと。欧米の黒人奴隷制研究の多くは、砂糖植民地としては新興地域であるジャマイカを対象としており、より古い植民地リーワード諸島ネイヴィス島の研究は立ち遅れているので、新たな問題提起が期待できたため。 滞在中にこの文書の、とくに奴隷の記名データが利用可能な部分の主要部をコピーまたは書写。帰国後それらの分析を行う。ジャマイカの砂糖プランテーションがモノカルチュア経済モデルに近いのに対し、ネイヴィス島のプランテーションでは、奴隷の多くが農園の生産活動以外に振り向けられていた。具体的には、プランターは奴隷にさまざまなスキルを習得させ、彼らを他の農園などに労働派遣し賃料を収取するビジネスを拡大させていたを実態を明らかにすることが出来た。 このことがネイヴィス島に特有の条件からするものなのか、他の英領西インド諸島に広く見られた傾向にも関わらず、これまであまり注目されてこなかったことなのかは、今後の課題である。この事実発見の成果は、文献研究の成果と合わせて、2016年6月23日~同月25日に米国ニューヨークで開催されるアメリカ農業史学会(AHS)年次大会にて報告予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2014年度の資料調査範囲は、ほぼジャマイカ植民地の砂糖プランテーションに限られていた。とくに英植民地当局が作成した「奴隷登録簿」Slave Registers史料コピーの多くを入手でき、その検討を通して奴隷の低出生や高死亡の実態を明らかに出来たことは大きな成果だった。 しかし他方2014年度から翌2015年度の文献研究の結果、欧米の研究界は奴隷家族の実態解明に踏み込みつつあることが分かり、とくに史料の利用可能なジャマイカのいくつかのプランテーションについて作業が大きく進んでいることを確認した。そこでこの傾向に対応すべく、本2015年度は、視野を広げジャマイカとは性格の異なる地域について奴隷家族の実態を調査することとした。そこでは奴隷主が単にプランターとしてだけではなく、熟練労働の派遣行に注力しており、それに伴い奴隷集団が細分化され、結果奴隷家族の紐帯の広がりが大きく制限されていたことが分かった。これは当初想定してはいなかった発見事実である。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である今2016年度では、昨年度のネイヴィス島についての成果を踏まえ、プランターや農園管理者の経営方針が奴隷家族のあり方ににどのような影響を与えるかという視点を加えて、再びジャマイカ植民地の史料調査に取り組む所存である。 その際まず6月にアメリカ農業史学会年次大会でネイヴィスの事例報告をし、その発見事実の評価についてさまざまな国外の研究者の建設的批判を得て、ジャマイカのパタンを相対化し、両植民地における奴隷の家族的紐帯と経営との関連を比較検討し、成果を日本又は海外の学術雑誌に発表したい。
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