2014 Fiscal Year Research-status Report
ロシア第一次革命における労働運動と自由主義運動-同盟・包摂・乖離の視点から
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26370872
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
土屋 好古 日本大学, 文理学部, 教授 (70202182)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ロシア第一次革命 / 自由主義運動 / 労働運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず8月にロシア国立図書館(サンクトペテルブルク)の新聞フォンドにおいて、1906年1月から3月までの労働者の状況と第一国会選挙戦関連の記事を集中的に調査した。この調査から、当該時期ペテルブルクの労働者は、1905年末以来のロックアウトによる大量失業に苦しんでおり、それが国会選挙への対応に影響を与えていた可能性が明らかになった。 本史料調査とは別に、11月16日、2014年度西洋史研究会大会(於:東北大学川内南キャンパス)の共通論題「戦争と『未完のネイション』」において、基調報告をおこなった。当報告者の論題は「帝国と『国民』の相克-ロシア自由主義者の市民的ネイション形成志向とツァーリ専制(1904-1905年)」である。ここでは、自由主義者の運動の視点から、ネイション形成、民衆の政治社会への包摂の問題を検討し、1905年初頭以来自由主義運動と労働運動がある種の同盟関係に立っていたこと、しかし1905年末にその同盟関係は解体に向かっていたことを主張した。 さらに、英文論文From Workers' Milieu to the Public Arena: Workers' sociability and obshchestvennost' before 1906を脱稿した。本論文は、論文集Obshchestvennost' and Civic Agency in Late Imperial and Soviet Russia(松井康浩編)に収められて、イギリスのPalgraveから出版されることが決まっている。本論文では、労働者階級とロシア有識者社会との関係を、労働者の自己組織と市民的「社会」の関係から検討し、第一次革命期には、それまで下層民衆を排除していた市民的「社会」が、あたかも拡大して労働者を包摂するかのような状況が生まれたことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要で示したように、新聞記事の調査の成果があった。従来ペテルブルクでは社会民主党の扇動もあり、工場労働者の第一国会選挙のボイコットがかなり広範にあったとされてきた。他方、モスクワではボイコットはそれほどの広がりを持たなかったという。こうした相違が、単に社会民主党の扇動活動だけによるのではなく、とりわけペテルブルクで強く見られた工場労働者の大量失業という問題に影響されていた可能性が明らかになった。この点は、本研究課題にとって重要な進展であったと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の調査をさらに補強するべく、新聞記事の調査、また文書館での調査を推進していきたい。また失業問題が大きな影響を及ぼしていた可能性があることから、ペテルブルクの当該時期の失業問題を扱ったミハイロフの研究などを再検討するとともに、新聞だけでなく、失業問題を報道していた労働組合の諸機関紙・誌なども調査の対象として情報の収集にあたる。具体的には、平成27年度は、フィンランドのヘルシンキ大学図書館(フィンランド国立図書館)のスラヴ図書館において、調査する予定である。 なお、2015年8月に幕張で開催される東中欧研究世界大会においては、本研究の成果の一部を発表することになっている。同大会では報告のほかに、第一次革命をテーマとするパネルでは討論者を務めることになっており、国外の研究者との議論を通じて本研究の深化を図りたい。
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