2015 Fiscal Year Research-status Report
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26370876
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
佐原 哲也 明治大学, 政治経済学部, 教授 (70254125)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | テロリズム / バルカン半島 / 第一次世界大戦 / 中東 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は第一次世界大戦勃発に国際テロ組織が果たした役割の解明を目指している。史学史の視点からは国民史叙述の空隙を埋め、比較紛争学の視点からは紛争における非国家主体の役割の概念化という学術的意義をそれぞれ帯びている。分析対象とした具体的な団体は、内部マケドニア革命機構(IMRO)セルビア・チェトニク運動(SCM)統一と進歩委員会(CUP)及びアルメニア革命連盟(ARF)である。四つの組織は目的も理念も異なるが、その行動様式には幾つもの共通点が指摘できる。いずれの組織もゲリラ戦を主とする武装闘争路線を採用しており、都市部では暗殺・強盗・無差別の民間人殺害・破壊工作を行っていた。組織論の面では、大衆路線を標榜しながらもフリーメイソン型の秘密結社の形態を取っていた。本研究が解明を目指す第一の課題は、四つの組織が類似した戦術と組織論を採用した理由の解明である。前年度には、IMROの先駆的なモデルが同盟関係にあったARF、ついで、ライバル関係にあったSCM、そして、本来は取り締まる側にあったCUPへと伝播したことを明らかとしたが、本年度は、さらに、IMRO指導者のボリス・サラフォフが果たした役割を解明することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、ブルガリアでの調査によって、ボリス・サラフォフ関係の資料の収集が進展したことに加えて、ブルガリア軍事アカデミーのディミタル・ミンチェフ名誉教授の知遇を得たことで、IMRO幹部のペータル・ダルヴィンゴフの活動に関する資料を多数収集できた。また、ギリシャでは、マケドニア革命研究所のヴァシリス・グナリス所長との知遇を得たことで、アンダルテスの活動に関する詳細な資料集の入手にも成功した。トルコでの調査では、オスマン帝国関係の未刊行資料を多数収集することにも成功した。こうして豊富な資料が揃ったことで、テロ組織同士の隠れた協力関係のより詳細な実態が明らかとなりつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、昨年度に収集した資料の分析を続けるとともに、主としてロシア語の補足的資料の収集を試みる。これと並行して、昨年度に発見された現代のテロ組織の行動形態との比較という作業も続けて行く方針である。100年前のテロ組織が持っていた、武器密輸、破壊活動のノウハウの伝授、人的交流等の横のつながりが、現代のテロ組織のネットワークと酷似しているのは偶然とは思えない。とりわけ、CUPの特務機関(Teskilat-i Mahsusa)の後継組織であるトルコ国家諜報機構(Milli Istihbarat Teskilati)がクリム・タタールやチェチェンのテロ組織とウクライナの極右ファシスト民兵の仲介をしているという事実や、ボスニア・リビア・シリアを結ぶ武器密輸を組織・統括しているという事実は、オスマン帝国末期のテロ組織ネットワークと現代の中近東テロ組織網の結びつきを解き明かす鍵になると考えられる。この方向は当初の研究計画の枠を大きく超えるものではあるが、非国家主体が紛争と国際関係に及ぼす役割の解明というより大きな学術的課題を達成するために必要な作業である。本年度はこの方向での研究をさらに進めて、100年前のテロのメカニズムと現代のそれの比較研究を深化させて行く方針である。
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Causes of Carryover |
平成27年度は本務校から特別研究の許可が下りたため、研究に費やす時間が増えた。そのため、平成28年度に行う予定であった海外調査を前倒しで行い、そのために20万円の前倒し支払いを受けた。だが、経費の節約に努めた結果、20586円を残すことができた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初計画の一部として充当する。
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