2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26370883
|
Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
田野 大輔 甲南大学, 文学部, 教授 (60330122)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 総力戦体制 / 社会政策 / 日独関係 / 労働 / 余暇 / 厚生 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、1930年代半ばから40年代初めにかけての日本とドイツの総力戦体制構築の過程で、労働・余暇問題への対処を主眼とした両国の社会政策がいかなる役割を果たしたのかを、比較歴史社会学的な観点から考察しようとするものであるが、本年度はナチスの社会政策、とくに「歓喜力行団」の活動、日独関係、とくに文化面での交流、および日本の総力戦体制と厚生運動の展開の3点について、ドイツの文書館・図書館等で行う史料調査、および研究代表者の所属研究機関で行う史料分析・研究調査の2つを組み合わせて研究を進めることにより、以下のような研究成果を得ることができた。 ナチスの社会政策、とくに「歓喜力行団」の活動については、これと「ドイツ労働戦線」に関わる史料・文献を収集・精査することにより、「歓喜力行団」を中心とするナチスの社会政策が機械論組織論の批判と人間的要素の重視という方向で生産性向上の活路を見出そうとするものだったこと、またそうした先進的な社会政策が余暇の拡充を通じた生産性の向上ばかりでなく労働者の社会的統合をはかるものでもあったことを、関係者の動向も含めて明らかにすることができた。 日独関係、とくに文化面の交流については、この時期の日独文化交流の展開に関わる史料・文献、両国の関係者が記した文書などを精査・分析することにより、戦時下日本の社会改革構想がナチスの先進的な社会政策に模範を見出しつつも、これを精神主義的な方向で受容しようとしたため、余暇の拡充とは真逆の一方的な労働強化にいたったことを裏付けることができた。 日本の総力戦体制と厚生運動の展開については、厚生運動・産業報国運動に関わる史料・文献などを調査・分析することにより、厚生運動が労働統制の強化を目的とする勤労新体制建設の動きに呑み込まれ、実質的な意味を失うことになった過程について一定の見通しを得ることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は本研究の3つの研究対象、すなわちナチスの社会政策、とくに「歓喜力行団」の活動、日独関係、とくに文化面での交流、および日本の総力戦体制と厚生運動の展開のそれぞれについて研究を進め、一定の成果を得ることができた。 ナチスの社会政策、とくに「歓喜力行団」の活動については、前年度の研究成果を学会報告・学術論文にまとめる作業に勢力を注いだため、新たな知見はあまり得られなかったが、「歓喜力行団」の関係者の動向から、ナチスの社会政策が労働者の社会統合をはかるものでもあったことを、具体的に裏付けることができた。 日独関係、とくに文化面での交流、および日本の総力戦体制と厚生運動の展開については、日本の文書館・図書館等での史料調査を十分に行うことができず、史料・文献の精査・分析が中心になったため、当初の計画の5割程度しか研究を進めることができなかった。日独関係については、ドイツの社会政策を模倣しようとする姿勢が一方的な労働強化をもたらした逆説的な過程を裏付けることができたが、日本の総力戦体制と厚生運動の展開については調査が遅れており、次年度は日本の文書館・図書館での史料調査を拡充することで対応をはかりたいと考えている。 また研究成果については、当初の計画では本年度中に研究成果を学術論文にまとめる予定をしていたが、学会発表しかできなかった点で、研究の進展にやや遅れが生じている。しかしすでに学術論文にまとめる作業はほぼ完了しており、次年度前半には学術論文を発表する予定である。研究全体の成果をまとめた著書については、まだ出版に向けた準備に入った段階で、当初の予定よりやや遅れている状況にある。
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる次年度は、調査が遅れている日独関係、とくに文化面での交流と、日本の総力戦体制と厚生運動の展開の2点に焦点をあて、ドイツと日本の文書館・図書館で行う史料調査、および研究代表者の所属研究機関で行う史料分析・研究調査の2つを組み合わせて研究を進めることで、以下のことを明らかにしたい。 日独関係、とくに文化面での交流については、日独文化交流の展開に関わる史料・文献、両国の関係者が記した文書などを精査・分析することにより、日独の精神的な絆を強調する相互認識・イメージが表面的なものにとどまった原因、日独の相互認識・イメージが日本の総力戦体制構築に及ぼした影響を解明する。またとくに、本年度の研究で明らかになった余暇の重視とその反面での労働強化という逆説的な過程についても、史料的な裏付けも含めて調査を深化させる。 日本の総力戦体制と厚生運動の展開については、総力戦体制論や厚生運動・産業報国運動研究を精査した上で、日本の文書館・図書館で史料調査を進め、厚生運動の指導方針をめぐって対立が混乱が生じた原因や、厚生運動が総力戦体制構築の過程で果たした役割、厚生運動と産業報国運動・国民精神総動員運動との関係を究明する。とくに厚生運動が労働統制の強化を目的とする勤労新体制建設の動きに呑み込まれ、実質的な意味を失うことになった過程を具体的に明らかにする。 こうして得られた研究成果をもとに、ナチスの影響のもとで展開した日本の社会政策のあり方を、20世紀の総力戦体制=福祉国家体制の成立という枠組みのなかで捉え直すことを試みる。次年度は、研究成果を学術論文として発表するとともに、著書の出版に向けて原稿の執筆を本格的に開始する。
|
Causes of Carryover |
本年度中に全額分使用したが、物品費の立替え払いの処理が年度内に間に合わなかったため。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度開始後すみやかに物品費の立替え払いの処理を行い、次年度使用額分を支出する。
|
Research Products
(2 results)