2014 Fiscal Year Research-status Report
第二次大戦後のイギリス帝国における開発概念の再検討―アフリカ農村開発計画を中心に
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26370885
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Research Institution | Shimonoseki City University |
Principal Investigator |
水野 祥子 下関市立大学, 経済学部, 教授 (40372601)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | イギリス帝国 / 植民地開発 / 植民地科学者 / 東アフリカ / 農村開発 / 資源 / 技術援助 / 生態系 |
Outline of Annual Research Achievements |
1940-60年代にケニヤ、ウガンダ、タンガニイカで実施された農村開発計画をいくつか取り上げ、計画の目的、方法、結果と課題をめぐる植民地科学者の議論を分析した。例えば、ケニアの中央州やタンガニイカのスクマランドで原住民統治機関を介して強制された土壌保全政策は、現地住民の反発を招き、ナショナリズムの高揚につながった。他方、ウガンダのキゲジ県では、土壌保全政策に対して住民の反抗がほとんどなく、柔軟な反応が示された。こうした各地の経験は、専門誌や専門家会議を通じて植民地科学者ネットワークのなかで共有されており、かれらが自らの担当する開発計画の立案や修正の際に分析、参照するデータベースとしての役割を果たしたのである。 これまで植民地の開発計画は、西洋近代科学に基づく単純化、標準化された方法で自然や現地住民を管理することを目的としており、現地の生態系や社会状況を無視した案が作成され、施行されたと論じられてきた。しかし、現場で計画の実践にあたった植民地科学者の試行錯誤の過程に注目すると、かれらが開発計画を成功させる前提条件として、アフリカの生態系や現地社会にかんする基礎研究の必要性を強く提唱するようになったことが明らかである。本研究では、植民地科学者の開発アプローチが現地の社会や生態系との遭遇によって修正される「実験的」なものであったことを指摘することによって、従来の植民地の開発概念を問い直したといえよう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アフリカの中でも中核となる科学研究機関の一つであり、東アフリカ各地の情報が集積する場であった東アフリカ農業林業研究協会(East African Agricultural and Forestry Research Organization)の年次報告書や機関誌East African Agricultural Journal、および1950年代末までのアフリカ開発のための研究成果をまとめたE. B. WorthingtonのScience in the Development of Africaを分析し、農村開発計画の立案者だけでなく、現場で計画の実践にあたったフィールドワーカーの開発観や、かれらから見た現地社会の反応を明らかにした。また、植民地科学者と植民地省や植民地政府との間の開発観の相違点を検証し、科学者が農村開発プロジェクトにおいてどのように位置づけられていたかを把握するために、イギリス国立文書館所蔵の植民地省関連文書の調査にあたった。
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Strategy for Future Research Activity |
イギリス、フランス、ベルギー、ポルトガル、南アフリカ、ローデシアの6か国で、サハラ以南アフリカの開発のための技術援助を目的として設立された二つの組織、サハラ以南アフリカ科学協議会(Scientific Council for Africa South of the Sahara)と、サハラ以南アフリカ技術協力委員会(Commission for Technical Cooperation in Africa South of the Sahara)の年次報告書と、主催した専門家会議の議事録を分析し、イギリスとそれ以外のヨーロッパ諸国の植民地科学者の間で、開発計画にかかわる知識や技術がいかに交換されたか、アフリカの自然と人々についていかなる理解をもつにいたったかを明らかにする。また、これら二つの組織と国連、FAOとの関係に焦点を当てることにより、国際機関による開発援助計画にイギリスの植民地科学者の開発思想や実践が及ぼした影響を検証する。
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Causes of Carryover |
書籍購入費が当初の予定よりも少なかったため、当該助成金が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当該助成金は次年度分の書籍購入費として使用する予定である。
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Research Products
(2 results)