2014 Fiscal Year Research-status Report
戦間期ベルリンにおける<共>とクィアの交錯―M・ヒルシュフェルトを中心に
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26370886
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
星乃 治彦 福岡大学, 人文学部, 教授 (00219172)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | クィア・ヒストリー / マグヌス・ヒルシュフェルト / 性科学 / 戦間期 / 労働運動史 / ヴァイマル共和国 / 性改革運動 / ベルリン |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者はこの間「クィア・ヒストリー」を提唱してきた。これはジェンダー史の延長線上で、セクシュアリティの観点からドイツの近現代史の見直しを進めるものである。この成果の上に、今回、公共圏議論の延長線上に登場したネグリとハートが提唱する<共>への関心を交錯させる。申請者がすでに労働運動史研究としての大きな成果を出してきているこの分野で、戦間期ベルリンという<共>の時期と空間の限定を改めて「クィア・ヒストリー」に与えると、その交差点に登場するのは、マグヌス・ヒルシュフェルト(Magnus Hirschfeld)という性科学を創設したユダヤ人である。 ヒルシュフェルトの実像は、まだ解明されているとは言いがたい。本研究ではとくに、彼のもつ<共>の主導者=社会主義者の面と、「クィア」の先駆者とされる面の両方に注目し、その解明につとめる。この作業は同時に、プレモダン=「共同体」・モダン=「個」・ポストモダン=<共>といった史学史的問題関心の再考にもつながろう。 平成26年度は、ヒルシュフェルト自身の著作や欧米圏のヒルシュフェルト研究を中心に、文献の調査・収集・整理につとめた。特にドイツにおけるヒルシュフェルト研究の第一人者であり、ベルリンのマグヌス・ヒルシュフェルト協会の会長をつとめるラルフ・ドーゼ(Ralf Dose)の研究からは、今後の研究を進めていくうえでの基礎的な知識を習得することができた。またそれと同時に、「クィア・ヒストリー」の理論的構築とその発展を目指し、歴史学研究会近代史部会との交流・議論を重ねた。その成果は、2014年度歴史学研究会大会近代史部会「「寛容」と嫌悪を問い直すためのクィア史」として結実した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
<共>とクィアの交錯をテーマとして掲げる本研究において、その交差点として浮上するヒルシュフェルトの生涯の解明が不可欠である。その意味で、これまでの先行研究において彼がどのように位置づけられてきたのかを把握できたことにより、今後の研究を進めていくうえでの重要な足場を形作ることができた。 また理論的な面においては、歴史学研究会近代史部会との交流・議論を深めていくうえで、「クィア・ヒストリー」の方法論として「戦略的本質主義」がもつ重要性を改めて確認した。クィアの立場をとれば、人類はもともとボーダーなき存在として位置づけられる。ただ、歴史における「主体形成」を分析する際には、そのボーダーを設定せねば分析は難しい。それゆえ本質主義的に設定された既存の枠組みやボーダーを敢えて暫定的に援用し、分析を進めるなかでそれを徐々に解体していくという手法こそが重要となる。この点を再確認できたことにより、「クィア・ヒストリー」の方法論のさらなる深化を試みる準備が可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究においては、<共>とクィアの交差点としてのヒルシュフェルトの生涯の再構成が課題となる。その際必要となるのは、①彼という存在を生み出した戦間期ベルリンという空間とその特質の解明、そして②その存在を分析するための<共>理論とクィア理論のさらなる深化である。 ①に関しては、引き続き関連する史料や文献の調査・収集・整理をおこなう。また②に関しては、海外研究者との交流をおこなうほか、ドーゼを招集したシンポジウムの開催を予定している。
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Causes of Carryover |
平成26年度においては、関連文献が想定よりも安価に入手できたこと、また人件費に関しても、購入文献のデータベース化に際して想定よりも人手が少なく済んだことから、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度にマグヌス・ヒルシュフェルト協会会長のラルフ・ドーゼ氏をドイツから招聘するにあたって、平成27年度には、その準備のために平成26年度の未使用額を利用する。具体的には、申請者のベルリン訪問のほか、日本での招聘地となる予定の東京の研究者との折衝のための旅費に利用する。
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Research Products
(7 results)