2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26370888
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小杉 康 北海道大学, 文学研究科, 教授 (10211898)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 考古学 / 続縄文 / 発掘調査 / イルカ / 礼文華遺跡 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、当初の計画では本研究の最終年度にあたるために、研究の中心となる礼文華遺跡の発掘調査においてこれまでに残された課題と解明できなかった課題とを解決し、またその結果をふまえて本研究全般をカバーする発掘調査研究報告書を刊行するとともに、その成果を遺跡のある地元に還元するための研究発表を現地で実施することを目的とした。 残された課題は遺跡が所在する土地の地権者との関係でこれまでに実施することができなかった遺跡の北側への広がりを確定するための確認調査の実施である。これまでに解明に至らなかった課題とは、本研究の開始にあたって当遺跡がイルカを集中的に捕獲した集落の可能性を予測したが、イルカを捕獲した直接的な活動痕跡が未だに確定できていない点である。発掘調査によって多くのイルカ骨は発見できたが、その捕獲ないしは解体処理した地点が不明である。 これらの具体的な課題への取り組みを発掘調査の実施によって進めていたところ、調査期間の中盤で北海道胆振東部地震が発生し(2018年9月6日)、発掘調査の続行が不可能になり中断した。そのために補助事業期間の延長を申請したところである。それまでに実施できた発掘調査では、頭部を切断して埋納したと推測されるイルカ頭骨を発見でき、イルカの捕獲場所(当時の海岸近くを想定)及び解体処理場所ではないが、イルカとの関わり方を解明するための新たなデータを得ることができた。また、遺跡の北側への広がりの確認調査は緒についたばかりで中断となったが、当時この集落のランドマークであったことが推測される柱状の岩塊周辺で同時期の活動痕跡を発見することができた。当初予測したイルカ捕獲集落といった側面にとどまらず、本遺跡の性格と地域社会における役割についてのより具体的な様相が明らかになりつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究において未解決の課題を解明するための発掘調査を2018年度に予定していたが、2018年9月6日に発生した北海道胆振東部地震のために調査を中断することになった。そのために本研究の最終年度に刊行する予定であった発掘調査研究報告書の作成に取りかかれなかった。今後同様の事態が生じた際には、これまでに実施してきた発掘調査の結果と関連する研究の成果をもって同報告書を作成する予定である。不慮の事態が起こらなければ、当初の計画通りに遺跡の北側への広がりを確認し、また旧海岸線の近くに遺存している可能性があるイルカの捕獲・解体処理場所の探索を行う。 銛猟の主要な道具である骨角製銛頭の研究は、本研究の発掘調査で発見された新型式の資料を含めた総合的な研究を進めており、その成果の一部は既に論文でも公表している。それと関連して、漁労具の一種である魚形石器(疑似餌機能の石器)の新型式の発見もあり、それらを総括してイルカ猟の具体的な内容の検討を道具面の分析からも進めている。 発掘調査の成果を論文や学会発表にだけで終わらせずに、遺跡のある地元で遺跡の保全と合わせて実施するための取り組みは、当地の教育委員会や遺跡周辺の住民の方々と話し合いながら今後の計画を検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
①遺跡の北側への広がりを確認する。(2018年度は該当する土地で調査を行うことが地主から許可を得ているので、2019年度も実施可能であると判断している。)②当集落のラウンドマークの可能性が推測される柱上の岩塊(通称:立岩)と集落の居住域との空間的な関係を明らかにする。(試掘をともなう確認調査、測量調査の実施。)③イルカの捕獲・解体処理場所を特定する。しかし、それができない場合は、イルカの骨格各部位の出土状況を整理して、イルカと集落とのかかわりを明確にする方向で、これまでの研究成果をまとめる予定である。④当地域で前科研補助事業から引き継いで実施している「噴火湾北岸縄文エコミュージアム」活動の一環として、野外ではサテライトとなる遺跡の整備・保存のための準備に取り組み、出土遺物・データについては将来的にガイダンス施設となるコア・ミュージアムで展示を行う整理・準備を行う。(地元教育委員会、地元ボランティアの方々と計画を立て、本科研終了後も持続的にエコミュージアムを運営できる仕組みづくりを行う。)
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Causes of Carryover |
2018年8月24日から9月12日までの予定で実施していた豊浦町礼文華遺跡の発掘調査が、9月6日未明に発生した北海道胆振東部地震によって中断した。そのために当該年度に予定していた調査課題を達成することができなくなった。当該年度の発掘調査の結果を受けて、本研究の総括となる『発掘調査研究報告書』を作成・印刷・刊行する予定であったが、2018年度中には実施することができなくなった。2019年度には、前年度に中断して実施できなかった調査課題を解明するための発掘調査・資料整理を予定しており、その予算として約30万円をあてる。『発掘調査研究報告書』の作成・印刷・刊行の予算に約40万円をあてる計画である。
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