2014 Fiscal Year Research-status Report
道具組成からみた弥生時代瀬戸内地域における地域性成立と交流・鉄器化進行過程の研究
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26370896
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
村田 裕一 山口大学, 人文学部, 准教授 (70263746)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 弥生石器 / 弥生鉄器 / 石器鉄器組成 / 石器鉄器の地域性 / 地域間関係 / 鉄器化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究成果は,本年度対象地域である山口・広島・岡山県域についての石器鉄器データベースの作成と,資料の実物観察調査による所見である。 石器鉄器データベースについては,山口県域では網羅的に,広島・岡山県域では地域の拠点的な遺跡について作成した。テキスト情報の一覧表ベースでは概ね完成したが,実測図の収録に関しては完了していない。 実物観察調査の所見としては,山口県域東部における石器組成,関門地域における特徴的な剥片剥離技術の存在,岡山県岡山市域における特徴的な剥片剥離技術の存在の指摘などが主要な成果である。山口県域東部では,前期から中期初頭にかけて,農具・工具・狩猟具ともに種類も量も豊富な石器組成を示すが,県域東部および広島県域にかけては石器組成の内容は相対的に貧弱である。一方,岡山県域では,石器組成の内容は種類・量ともに充実しており,特にサヌカイト製の打製石器の内容に特徴が見られる。剥片剥離技術に注目すると,珪質岩を石材として,円礫を分割した石核から不定型な剥片を剥ぎ取り,これを素材として小型の石錐を製作する技術工程が,山口県域東部から北九州市域側を含めた関門地域に広がることを確認できた。また,安山岩や硬質頁岩を石材として,礫を分割した石核から不定型な中型の剥片を剥ぎ取り,不定型な剥片石器を製作する技術工程も見られた。このような技術工程は,前期末~中期初頭の時期に,さらに関門地域を越えて広がるようであり分布範囲の捕捉が今後の課題である。岡山市域では,サヌカイトの不定型剥片を用いた楔形石器が多数見られ,剥片剥離技術および生業との関わりが注目される。今後さらに検討が必要である。 鉄器については,初現期の鋳造鉄器再利用品の量,展開期における器種の内容,発展期における鉄鏃とヤリガンナの型式組成によって地域性を捉えることができるが,従来の所見を追認するに止まっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
根本的な原因は,石器鉄器データベース(石器および鉄器のテキスト情報ならびに実測図画像のデータベース)作成の遅れによる。これは,実測図の収録にかかる発掘調査報告書のスキャニング作業に予定外の時間がかかっていることが主な原因である。石器鉄器データベースの作成が本研究の基本となる作業なので,質を落とすことができないため慎重な作業を行っている。当初の予定では,主に年度の前半に行うこととしていたが,年度の後半になっても作業を継続した。この作業の遅れが原因となり,主に年度の後半に予定していた資料の実物調査を広範囲に行うことができなかった。資料の実物調査は,ピンポイント的なものになってしまうとともに,予定していた内容の全てを実施することができなかった。一方で,そのようなピンポイント的な調査の中でも,地域性や時代性を抽出するための特徴的な事例を確認することができたことは一定の成果であると認められる。このようなことから,全体としては「やや遅れている」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究計画に遅れが生じてしまったので,次年度以降,遅れが生じないように実施計画の管理に留意する。一番問題となった石器鉄器データベース(石器および鉄器のテキスト情報ならびに実測図画像のデータベース)作成には,エフォートの増加と研究補助の増員を行う。また,石器鉄器データベース作成に関わる遺物実測図スキャンについては,器機構成を見直し設備の増強を行うことにより作業効率を高める努力を行う。実物調査の時期についても,当初計画では主に年度の後半を予定していたが,先方の都合もあり,調査日程の調整の必要があるので,結果的に時間不足とならないように年度の前半から実施する。 質的な問題としては,対象地域について柔軟化を行う。当初計画では,年度ごとに対象地域を区切っていたが,地域間の比較のためには,もう少し柔軟に対処する方が好ましい結果を得られる場合がある。そこで,当初計画をベースとしながら,全体計画に遅れを生じない範囲に限り,必要に応じて各年度の対象地域を越えての実物調査を行うことも視野に入れながら研究を進める。
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Causes of Carryover |
当該助成金が生じた最大の理由は,実物観察調査を当初予定していたとおりに実施できなかったことによる。これについては,「11.現在までの達成度」で述べたように,実物観察調査の事前作業である石器鉄器データベース(石器および鉄器のテキスト情報ならびに実測図画像のデータベース)作成の遅れが原因となり,年度の後半に予定していた観察調査の実施計画の具体化について遅れを生じたことが最大の要因である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
実物観察調査の遅れを補うため,平成26年度に予定していた調査を主に平成27年度に行う。また,このために当初平成27年度に予定していた調査については,その全てを平成27年度中に完了することが難しいため,平成27年度と平成28年度にまたがって調査を実施することとする。結果的に,平成26年度の調査計画の遅れを,平成27~28年度の2年間で解消する計画となる。 また,実物観察調査の事前作業である石器鉄器データベース作成の効率を上げることを心がける。エフォートを増して作業を行うとともに,研究補助の方式について見直し(補助者の増員と作業時期については早期着手),石器鉄器データベース作成に関わる遺物実測図スキャンについては器機構成の見直し(処理能力の高いパソコンとスキャナの追加購入によりスキャン設備を増強)を行い,作業を迅速に進めることができるように改善する。
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