2016 Fiscal Year Research-status Report
放射性物質影響下における飼料資源の再生プロセスに関する研究
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26370918
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
松村 啓子 宇都宮大学, 教育学部, 准教授 (60291291)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 栃木県 / 永年生牧草 / 除染 / 酪農 / 肉用牛 / 牧草一時保管 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、①原発事故による放射能汚染への市場の懸念が、市乳や肉用牛の流通に及ぼした影響の評価を行い、②前年度(28年2~3月)に調査を実施した那須町および那須塩原市の事例農家について、牧草作付制限と飼料充足率の低下の数量的把握、除染前後の心理的な負担に関する分析を実施した。 ①について、栃木県最大の酪農専門農協である酪農とちぎでは、2011年10月まで生乳の減産傾向が継続し、市乳販売においては代表的なブランドである「那須だいすき牛乳」や「那須こだわり牛乳」の販売量が減少の一途をたどった。また、矢板家畜市場における黒毛和種子牛の販売価格も2011年4月~12月にかけて対前年比を大きく下回った。畜産経営レベルでは、牧草利用自粛や故障牛の発生による搾乳量の減少、子牛や廃用牛の販売価格の低下が、収益性の悪化につながった。 ②について、原発事故発生の2011年は、事例農家すべてにおいて飼料作付面積の半分以上が利用自粛対象となった。ある農家では、2011年産牧草の処分量は、自給飼料全体から得られる粗蛋白質の29%。総繊維の27%に当たり、少なからぬ損失であった。一方、代替飼料の購入により、販売収入に占める飼料費の割合が2011年~2013年にかけては、通常年よりも7~9%上昇し、牧草利用自粛の影響が少なくとも2013年まで持続していた。利用自粛となった牧草の圃場還元には多大な労力が割かれたうえに、周辺住民からの苦情により作業を途中で断念し、自己所有地で一時保管するケースもあった。除染完了後も、林地に隣接する圃場を利用する農家や、震災当時の牧草を圃場還元した農家は、放射性物質検査の結果に対する不安を抱え続け、牧草地の全面作付、有用な敷料であった畦畔草や落ち葉の利用再開には至っていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
個人情報保護の観点から関係機関との調整が叶わず、放射性物質検査の牧草ロット単位のデータを入手することができなかった。そのため、事例農家の牧草地再生プロセスを、位置情報が特定できないかたちで視角化する作業に取り組んでいる。あわせて、栃木県との比較を行う対象として、県独自の牧草地再生事業を実施した岩手県を加え、現地でのヒアリング調査を行う準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
27年度のヒアリング調査対象であった経営体による、牧草および飼料用トウモロコシの直近の作付状況を踏査によって確認する。栃木県と同様に、広範囲の牧草地除染を行った岩手県においてヒアリング調査を実施する。
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Causes of Carryover |
空間分析を行うためのArcGIS用のソフトを購入しなかった。また、国の直轄除染が主体であり、市町村除染においても条件が異なる福島県との比較が適切ではないと考え、当該県内でのヒアリングを実施しなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
岩手県農林水産部畜産課および岩手県南部に位置する岩手ふるさと農協・同組合員を対象とするヒアリング調査の旅費、学術雑誌への論文投稿費として使用する。
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Research Products
(1 results)