2014 Fiscal Year Research-status Report
近代中国地域像の基軸と変動-『支那省別全誌』と『新修支那省別全誌』の比較から-
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26370934
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Research Institution | Aichi University |
Principal Investigator |
藤田 佳久 愛知大学, 公私立大学の部局等, その他 (70068823)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 支那省別全誌 / 新修支那省別全誌 / 清国 / 民国 / 東亜同文書院 / 東亜同文会 / 中国大調査旅行 / 中国の地域システム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は1901年に上海に設立された貿易実務者養成のビジネススクールである東亜同文書院とその経営母体である東亜同文会の手によって調査、編集、刊行された20世紀最大の中国地誌について、前半期の内1910年代後半に刊行された『支那省別全誌』全18巻(以下、全誌と称する)と1940年代前半に刊行された『新修支那省別全誌』(全22巻のうち9巻で中断、以下、新修と称する)を取り上げ、それらの比較研究から清末から民国期にかけての近代中国の基層部分と変動部分を統一的に把握することで、中国の地域構造とその編制基盤をあきらかにできないかという点に目的があり、それらに迫った。 第一年目の本年は、まず全誌シリーズを中心に刊行の意図、編集や内容についての仕組みなどの基本的史料の特性から明らかにした。それは東亜同文書院生の最終学年における各グループによる3カ月から6カ月に及ぶ徒歩中心の文字どおり大旅行による清、民国調査の蓄積がオリジナルな高いレベルにあり、その公表により、清、民国の地域実態を始めて明らかにしようという刊行の趣旨であること、それゆえ書院生の実地調査レポートが省別に十分活用され編集されたこと、編集は東亜同文書院の大旅行指導者が中心になって担当したこと、などが明らかになった。 この全誌のような多くの現地調査の累積にもとづく内容のデータや活写も含む作品は初めてであり、世界初の清、民国地誌の成果として位置ずけられることも明らかになった。 章を見ると、省の概説から始まり、貿易、都市、交通通信、交通機関、生産活動と取引の慣習、工業と鉱業、省外との移輸出入、商業団体、金融と度量衡、など、共通した構成になっており、各省の生産活動中心の比較が容易であり、各省の特性把握が容易に浮かび上がった。 各省は大きく見ると、外国との開港の有無により類型化が可能だとわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
目標には順調に接近しているが、本年分の全誌は18巻もあり、それも1巻あたり700から800ページの大著が続き、そのため、初年度のこの作業は最も多く時間がかかったためである。章構成はかなり各省共通の画一性がみられるが、その中身は画一であるはずはなく、それを理解していくのにも予想以上に時間がかかった。しかし、この全誌シリーズについては、欠号になっている四川省を除き、ほぼ全体に目を通すことが出来た。欠号になっている四川省についてもなるべく早くカバーするつもりである。それにより、日本人による清民国の地誌は、たとえば古くは岸田吟香が清末に出版した『清国地誌』にみられるように、もっぱらそれまでの伝統清国の諸文献から編集した作品であり、その後、遊覧風の地誌書、民国期には概説書が地理学研究者によっても刊行されたりするが、この全書シリーズは書院生の実地にくりかえした調査報告をベースにしており、他の地理書をはるかに上回るレベルにあることが分かった。その上で各省の章立てを節、項まで抜き出し、比較検討した。章立ては若干の省を除き、ほぼ画一的ではあるが、それぞれの内容には当然ながら軽重の差がみられ、そこに各省の特性が見出される。それを基準にして各省の特性を示すキーワードの抽出をすすめた。それにより省の分類と類型化も可能になると言える。欠号の雲南省を加えれば、全体の傾向がわかることになっている。なお、このシリーズは書院生の繰り返し行われた地域調査の報告書をベースにしている。調査報告書のどの部分が利用されたかはその一部についてチェックをすることが出来た。なお書院生の大旅行についてはこれまでの書院卒業生たちへの聞き取りや、彼らの自伝的記録を読むことで理解を勧めることが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究を進める中で、ページをめくるたびに色々な着想が生じた。たとえば、地域システムへの理解へのアプロ―チに都市農村関係から見ようとすると、この全誌シリーズは農業生産については十分に取り上げているが、農村としての取り上げ方は弱く、農業の記録のなかからそれを読み取ることになり、そうであるならば、まずは都市や町の相互が作り出す地域システム関係から見た方がよいように思われたりした。そのさい、幸いにも都市の壁の囲廓の有無や囲廓の中の充填度の記録があり、その考え方を補強出来そうで、それを都市のランクへの指標として試行したりして、地図化によって表現することが可能になる。また、個々の省の特性をみることに注意してきたが、この時代、いくつかの省では列強によってこじ開けられた港がそれなりに機能しはじめ、それを拠点にして経済圏と流通圏が浮かび上がりそうに思われた。そこでそれを詰めると、いくつかの省が相互にネット化する方向を示し始めていることもうかがわれ、このような省では省本来の独立的自給性が国内国外取引によって主に水運を媒介にして開放されつつあることも見出すことが出来そうであり、それにより、省間や流域単位の新たな経済圏形成の初期状況が把握できそうである。 以上の件は、初年度の試行の中での新たな着想への揺れであったが、その揺れが当初予定していた計画を質的に向上させるものであり、その意味ではその具体化により、より有効に新たな方向性を見出した面もあると言える。そして20年後に編集された新修シリーズとの比較によりその進化と変動を把握でき、これらは従来の近代中国地誌では触れられなかった点でもある。このような視点を持てば、次年度に扱う新修シリーズではより新たな側面からのアプローチも可能になり、より順調に進めることが出来るように思われる
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Causes of Carryover |
利用額の進捗状況については、2014年の年末に残余額の提示を受けたが、それまでと同様に自分の頭の中でメモ的に概算していたため、年度末になって予算をオーバーするのではないかという自己規制をしてしまったためで、あとは自己負担で書籍や資料、メモリーカードなどを購入したり、旅費負担をしたほどであった。本来なら、これらの支出により、予算額をほぼ消費出来たものと思われる。自分の頭の中の概算を反省している。 また、年度末にほかの用件処理も重なり、上記の点もあってこの件の処理に集中したため、 ついうっかり残余額を生んでしまったということもあり、あわせて反省している。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の書店の反省をふまえ、次年度は残余額を的確にフォローしつつ、研究計画にしたがって進めていきたい。一年目の残余額については、一年目のフォローと二年目の研究をふまえ、早速、関係書籍と資料購入を進めつつあり、また生き残りの方々が少なくなった東亜同文書院の卒業生への聞き取り調査を5月中旬に4~5日間ほどの予定で東京及び岩手県などで進めること、さらに国会図書館や外交史料館など東亜同文書院生による大旅行と東亜同文会側の資金計画などについての関連文献の検索閲覧を計画しており、これにより一年目の残余額以上の額を十分に使用出来、さらに2年目の研究計画に移行できるものと考えている。
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Research Products
(3 results)