2015 Fiscal Year Research-status Report
台湾漢人の民間信仰から見る「記憶」と歴史の「馴致」に関する宗教人類学的研究
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26370943
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
三尾 裕子 慶應義塾大学, 文学部, 教授 (20195192)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 宗教人類学 / 記憶 / 歴史 / 台湾 / 馴致 / 民間信仰 / 植民地 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、人間の生が往々にして紛争/戦争や異民族支配、災害(自然災害や人災)等の「暴力」から免れることができないことを出発点として、人々が、そうした体験をいかに「馴致」(自らの生の営みを肯定しうるように経験の総体を再構成すること)していくのかを解き明かすことを目的としている。具体的には台湾の漢民族社会の民間信仰を事例に、異民族と接触し、あるいは支配された社会的な記憶がいかに生成、伝承、変形されていくのかを、具体的な信仰対象の出現とそれに対する人々の対処、信仰体系や儀礼体系への取り込みといった側面から考察する。「記憶」や「歴史認識」研究ではオーラルヒストリーの収集や文字資料の分析が中心になりがちであるが、本研究では、民間信仰儀礼といった身体化された行為の遂行性にも重点を置いて考察する。 今年度は、昨年度に引き続き、日本人が「神」となった事例のジェネラル・サーベイを行った。というのも、調査を始めてみて、当初想定していた以上のケースが発見されたため、全体像をつかむためには、広域調査を続けることが必要と考えられたためである。更に、本テーマを考えるうえで興味深いと考えられる事例を二つほどピックアップして、より深い参与観察調査を開始した。これらのうちの一つは、「神」となった日本人が実在の人物であり、子孫と台湾の信者との間に相互交流が近年活発になっている事例である。他方については、実在の人物であるかどうかの特定ができないものであるが、台湾における特定の「場」の意味の変容に深くかかわっている事例として取り上げている。このほか、並行して、蒋介石が「神」となっている事例についても、広域調査を開始した。蒋介石は、戦後台湾の外から入ってきた統治者であるという点で日本人との共通性を持つものとして比較対象になりうるものと考え、調査を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度から引き続き、台湾の研究協力者である林美容氏(慈済大学)と共同で、「日本神」(日本人が「神」として祭祀されている)の事例のジェネラル・サーベイを継続して行った。これらは順調に進んでいるが、当初予想していた以上の事例が発見されており、今年度内に終えることはできなかった。併せて、外来神として、蒋介石が神として祭祀されている事例の調査も開始することができた。特定の事例についての詳細な調査としては、屏東県の二つの事例を取り上げて行った。うち一つについては、「神」となった日本人が憑依するシャーマンが行う信者向けの儀礼についての調査を共同研究者が行った。またこの「神」には子孫が現存しており、台湾の信者と彼らとの間に往来関係があることが昨年度の聞き取りでわかっていたため、今年度は、この点についても焦点を当てて調査を深めた。以上、調査はおおむね順調に進んでおり、データも蓄積されつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は、「日本神」のジェネラル・サーベイを完了し、蒋介石などの他の外来神の事例についても調査を進展させていくことを目指す。また、特定の事例についての詳細な調査については、日程調整がつく場合には、大規模な祭祀儀礼の機会に参与観察を行って、どのような人々が集まって、いかなる祭祀を行っているのかについての詳細を明らかにするとともに、信者へのインタビューなども行いたい。また、5月には日本台湾学会で、これまでの調査研究の中間報告を行う予定である。
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