2014 Fiscal Year Research-status Report
模合(頼母子講)を支える交換文化:沖縄の都市と村落における交換に関する研究
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26370948
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
平野 美佐(野元美佐) 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 准教授 (40402383)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 交換 / 沖縄 / 相互扶助 / 模合 |
Outline of Annual Research Achievements |
2014年度は4年間の研究の初年度として、沖縄の模合(本土の「頼母子講」「無尽」)や、その模合を支えていると考えられる沖縄社会の交換について、文献調査を行った。とりわけ、離島を含む沖縄県各地の「市町村史」を重点的に分析した。沖縄各地で行われてきた模合の記録は、各地の市町村史のなかでもまとまって書かれていることが少なく、ばらばらに記されている。これら諸市町村史の模合の記述を集めて分析することで、地域による模合の差異と類似点を見出すことができた。また、「市町村史」のなかに記された通過儀礼や年中行事についても各地のものを整理・分析し、近隣や親族と交換を行う機会としての通過儀礼・年中行事のあり方を発見することができた。加えて、現地での交換ネットワーク調査のため、ソーシャル・キャピタル、社会ネットワーク等の理論や調査方法について検討した。 現地調査としては、沖縄本島で、中年層と高年層の模合に参加し、その場の交換(会話、貨幣、情報等)について調査を行った。また、模合メンバー同士の関係にも注目し、メンバーの普段の生活における関わりを調査した。また、模合のメンバーを中心に、個々人に模合や交換に関するインタビューをすすめ、個人の模合史を追った。 また、沖縄研究者が集う「沖縄文化協会」の研究集会に参加し、研究者たちと情報交換を行った。研究ノート「親睦模合と相互扶助:沖縄・那覇周辺地域における模合の事例」は、2015年3月に掲載が決定した(日本生活学会『生活学論叢』26号)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
4年計画の初年度として、文献調査を集中的に行い、現地調査に必要不可欠な情報を収集し、今後の研究の基礎固めをすることができた。定期的に人が集まる模合は、貨幣の交換だけでなく、情報が交換され、飲食物が共有・交換される。共食や会話を通じて、互いの感情も交換される。このような交換の束としての模合を評価し、その背景の文化として交換について検討した。 沖縄では、模合以外の場面でもさまざまなきっかけで人が集まり、多様な交換を行う傾向にあることが、模合の統計データと民俗誌等を照らし合わせた結果、推測できる。沖縄社会の通過儀礼や年中行事における多くの交換・共有の機会からも、そのことがうかがえる。たとえば、沖縄社会では、「清明(シーミー)」、「高校入学祝い」等、日本のほかの地域にはみられない年中行事があり、家族、親族、友人・知人たちが集い、さまざまな交換が繰り広げられる。つまり、日常的に、人と交換・共有する実践が多い。このような多くの交換・共有実践は模合の交換と地続きであることが、聞き取り調査により明らかになった。 また、模合のメンバー同士のつながり方は、年配者と若年層では異なることがわかってきた。年配層は、実際に顔を合わせたり電話で連絡をとるのに対し、40代以下になると、メールやフェイスブック、ラインといったもので頻繁にやり取りが行われている。若い世代において、模合集会は、SNSのオフ会のような意味ももち合せている。このようなバーチャルな関係を交換という文脈からどのようにとらえるかは、今後の課題である。 このように、本研究はおおむね予定通り順調にすすんでいるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度の現地調査は、沖縄本島を中心に行ってきた。本年度から、現地調査は沖縄本島に加え、宮古島でも行っていく。具体的には、宮古島市の平良と伊良部島で調査を行う予定である。平良は宮古島の中心地であり、都市的地域である。伊良部島は最近、本島との間に伊良部大橋が架かったものの、その大部分は村落地域といえる。この二つの都市部と村落部における交換をそれぞれ調べる。2015年度はとくに村落に焦点をあて、彼らが村落内外とどのように交換によってつながっているかについて検討する。具体的には、行動日誌や、交換したモノ(農作物、海産物、貨幣、物品等)を記録してもらい、人々との具体的なつながりを検討し、そのなかで模合を位置付ける予定である。 また、沖縄本島の模合集団への参加、インタビューなども継続する。都市と村落での人のつながり方は、都市と村落、また年代、性別ごとに異なると考えられる。そのような差異も考慮しつつ、交換文化の全体像をみていきたい。
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Causes of Carryover |
2014年度は、沖縄での現地調査を進める一方で、現地調査への予備調査ともいえる文献調査に重点を置くこととなった。現地調査をより有効なものにするために、その予備知識や理論的枠組みを2014年度に文献調査によって形作ったほうがよいと考え、計画を修正したからである。よって、2014年度は、大学図書館等で「市町村史」などの資料を読み込んだり、社会ネットワーク等の理論的な書籍を使って理論的枠組みをつくる努力を行ってきた。 この結果、予定よりも沖縄で現地調査を行う回数と滞在日程が少なくなり、計画当初よりも旅費を少なく使用することとなり、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度は、デジタル一眼レフカメラ、SDカード、USBメモリー等を購入し、沖縄本島と宮古島の調査で利用する予定である。また、研究者との意見交換のため、日本文化人類学会、沖縄文化協会などに参加するため、学会参加費、交通費がかかる。引き続き文献調査も行うため、文献の購入、複写費が必要となる。 2014年度での次年度使用額を利用し、現地調査の回数や滞在日数を当初の計画よりも増やす予定であり、沖縄本島ならびに宮古島までの交通費と滞在費がかかる。また、聞き取り調査等の調査補助を依頼する予定であり、人件費の支出も見込まれる。
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Research Products
(1 results)