2015 Fiscal Year Research-status Report
模合(頼母子講)を支える交換文化:沖縄の都市と村落における交換に関する研究
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26370948
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
平野 美佐 (野元美佐) 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 准教授 (40402383)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 交換 / 沖縄 / 宮古島 / 模合 / 祝い文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、沖縄県本島をはじめ、宮古島本島、来間島、伊良部島などで模合やそれを支える交換文化についての現地調査を行った。具体的には、昨年度に引き続き、模合の参与観察を行い、そこでの貨幣、情報等の交換を記録した。また、個々人と面談をしながら、その人の生活歴、模合歴などの聞き取りを行った。その際、都市的な要素と村落的な要素に着目し、同じ模合という仕組みにおいて、流動的な人間関係をつなぎとめる都市的な文脈と、比較的安定した人間関係を確認する村落的な文脈があることがわかった。 宮古島市では、祝い文化の調査に着手した。宮古島と周辺の島においては、1月の成人式、3月の県立高校合格発表の日、4月の小学校入学式の日には全島あげて祝う。それぞれ該当する子どもをもつ家庭では、盛大な祝いの席が設けられる。そこに、親と関係のある者(親族、同僚、知人・友人)が夕方から夜にかけて入れ替わり訪れ、その数は100人を上回ることも珍しくない。祝う側は、一日に数軒、多い場合は10軒以上の家をかけもちして周り、祝意を表す。その際、現金3,000円を祝儀袋に入れて渡す。祝われる側は、豪華な料理と酒でもてなすと同時に、商品券(1,000円~1,500円)や菓子などを渡す。 このようにある程度定式化された宮古島の祝いをめぐる交換を参与観察するため、平成28年1月には成人祝いの家で調査をさせてもらい、3月の高校合格発表の日には、ある男性について祝いの家を4軒回った。これらの参与観察によって、人びとがあちこちの家を訪問し、共食し、貨幣を贈与し、返礼を受ける様子を記録することができた。 また、宮古島においてこのような祝いの慣習がいつ生まれ、どのように変化してきたのかを、新聞記事や文献等で分析し、祝い文化は形を変えながらも長年宮古島に存在してきたことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、文献調査を進めるとともに、現地調査も多く取り入れながら、沖縄の交換文化に迫ることができた。 沖縄本島や宮古島での模合の継続調査により、模合集団の変遷を跡付けることができた。模合集団が結成されてもそれが継続するとは限らず、長年培った人間関係がささいなことでうまくいかなくなり、模合が中断した例を知った。その一方、何十年もうまくいっている模合もある。模合集団も人間のように、あるとき生まれ、いずれ消滅する(なかには、メンバーを入れ替えて人間の一生以上に長く続く模合もあるが)。そのような「模合の一生」という観点から、交換を考察する有効性が明らかになった。 また、宮古島において、上述した祝い文化について、文献、聞き取り調査、参与観察を進めたことで、宮古島の人びとの交換活動が大規模に行われていることが理解できた。車社会となり、市町村合併が行われたことにより、近年ますます祝う範囲(人間関係)が広がり、盛んになっているという。所得水準が高くない宮古島では、規模が広く頻繁に行われる祝い文化について、何度も「生活改善」(祝いを質素にするよう行政等が指導すること)が行われてきた。しかし人びとはそのような「改善」には従わず、無理をしてでも祝いに駆け付け、祝いの場をつくることをやめなかった。その結果が、現在の祝い文化の盛隆である。この文化は、交換行為としてどのように読み解けるのか。引き続きの現地調査と文献調査で、その結論を導き出したいと考えている。 このように、本研究はおおむね予定通りに順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も、宮古島で行われている祝い文化をはじめとする活発な交換活動について、現代と過去から、つまり現地調査(都市部と村落部)と文献調査から迫ることを継続する。また、宮古島の模合をはじめとする交換の諸相を個々人への聞き取りから明らかにする。日常的な交換については、宮古島市公設市場の人びとの日常的な交換について参与観察を行う予定である。村落部についても、日常的な交換について記録をしてもらう。 また、沖縄本島(那覇市と糸満市)においても、模合についての調査を、聞き取りを中心に引き続き進める。また、牧志公設市場とその周辺において、模合をもっとも経済的に活用してきた商人の模合歴を通して、経済的な交換について明らかにする。 文献調査も引き続き行い、沖縄本島の模合等の交換文化の変遷を明らかにする。
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Causes of Carryover |
本年度は、文献調査と現地調査を精力的に行っていたため、国内、国際学会での成果発表を行わなかった。しかし次年度はすでに、5月にクロアチアで行われる「国際人類学・民族学科学連合(IUAES))」のInter-Congress 2016での成果発表が決定している。よってその経費を次年度に回したほうが良いと判断した。また、沖縄本島や宮古島での現地調査の日数を増やすため、国内旅費・滞在費の増額が見込まれる。その分も、次年度使用に回したほうが良いと判断した。 このような理由から、次年度使用を意図的に生じさせることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
引き続き、沖縄本島と宮古島での現地調査の旅費が大きく見込まれる。また、5月のクロアチアで行われるIUAESのInter-Congress 2016での成果発表のために、旅費と大会参加費が見込まれる。 また、国内の学会(日本文化人類学会等)において情報収集や意見交換を行うために、国内旅費が必要である。引き続き文献調査も行うため、複写費、書籍購入代も必要となる。さまざまな祝いの席を記録するため、一眼レフカメラを購入予定である。
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