2016 Fiscal Year Research-status Report
模合(頼母子講)を支える交換文化:沖縄の都市と村落における交換に関する研究
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26370948
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
平野 美佐 (野元美佐) 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 准教授 (40402383)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 交換 / 沖縄 / 宮古島 / 模合 / 祝儀 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度(平成28年度)の成果報告としては、まず5月に行われた「国際人類学民族学科学連合(IUAES)」中間会議(クロアチアで開催)で、沖縄県の模合をとりまく調査と人間関係について研究発表を行った。また6月には、「グローバル化するアフリカ農村と現金の社会化をめぐる人類学的研究」(科学研究費基盤(B))の研究会で、沖縄県の模合と祝儀文化について発表した。なお、2017年4月に行われるAnthropology Japan in Japan(AJJ)のSpring Workshopにおいて、宮古島の子供の祝儀文化についての口頭発表が受理されている。 本年度も引き続き、模合とそれを支える交換文化について、沖縄本島と宮古島で調査を行った。牧志公設市場や宮古島市公設市場関係者などの模合で参与観察を行い、さまざまな人間関係、多様な目的で模合が組織されることを確認した。また、宮古島の祝儀文化についても現地調査を行った。特に、子供をめぐる祝儀についての参与観察と聞き取りを行うとともに、年配者には祝儀記録を見せてもらい、それを調査・分析し、ライフヒストリ―を聞き取った。これにより、宮古島における祝儀の贈答と交換についての変遷をたどることができた。また、模合や祝儀の変遷がどのように宮古島や沖縄の社会変動と関わっているかを理解するため、図書館等において過去の新聞記事や市町村の資料を調査した。その結果、1960年代に贈答品が食品から現金へと変化し、同時に返礼品がコメなどの食品、菓子などを経ておこめ券・商品券へと変化してきたことがわかった。このような現金と商品券の交換は、現在、持続可能な経済的負担の少ないやり方として定着している。このような贈答品の変化の背景には、1960年代のサトウキビの生産拡大、スーパー等小売業の発達、1970年代の「本土復帰」など、政治・経済・社会的変化があると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ここまで研究がおおむね順調だと判断する理由は、沖縄本島と宮古島で現地調査や資料調査を行うなかで、沖縄の人々の現金のやり取りをはじめ、さまざまな交換の全体像が把握できつつあるからである。本研究の目的は、模合等の交換の研究を通じて沖縄の基層文化を明らかにすることである。沖縄県における模合や祝儀文化の継続は、旧暦の使用などにも表れているように、簡単に「ヤマト化」しない沖縄文化のレジリエンスを示している。これまでの聞き取りや資料収集を重ねたうえで確かにいえるのは、沖縄独自の文化が豊かに保たれてきたのは、沖縄の人々の努力や試行錯誤によるということである。さらにわかったのは、沖縄の人々の文化的実践は、単に昔のままを保持し繰り返しているのではなく、社会の変化に合わせてそのやり方を修正・改善しながら、継続していることである。言い換えれば、沖縄文化は単なる惰性ではなく、微細なイノベーションによって、変化しながら継承されてきたものである。その背景には、つねに外部に開かれ、好むと好まざるとに関わらず異質なものとの接触を迫られてきた沖縄の苦難の歴史もあるだろう。だからこそ沖縄の人々は、自分たちの文化を簡単に捨て去らず、変形してでも継続することを繰り返してきたといえる。その結果として、他の地域よりも強い文化的レジリエンスを示しているのではないだろうか。 ほかの日本の地域と同様、あるいはそれ以上にグローバル化やさまざまな社会・政治的変化に揺り動かされている現代の沖縄で、模合や祝儀というミクロな視点からみつめることで、そのような大きな像にたどり着いたことは、研究が着実に進展してきた証拠だといえる。今後はさらに理解を深め、文化人類学的調査の結果として説得的な議論ができるようにしたいと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今年は最終年度であり、引き続き現地調査も行いながら研究を深化させ、最終成果を公表することに重点をおきたいと考えている。 現地調査としては、8月、1月、3月に宮古島と那覇に滞在し、継続して調査してきた模合に参加する。また、日常的な交換についての事例を収集し、聞き取りを行う。宮古島の祝儀文化の調査も継続し、実際の祝いの場に参与させていただき調査する。家計簿、祝儀帳の調査を継続し、交換の実態を数字でとらえる。また、年配者を中心にライフヒストリ―を聞き取り、図書館等での資料調査も加えて、祝儀や交換の変遷を確認する。 成果発表としては、4月にAnthropology Japan in Japan(AJJ)のSpring Workshop 2017において、宮古島の子供の祝儀文化についての口頭発表を行う。海外の参加者とも議論しながら、沖縄の交換を文化人類学の交換の議論に位置づける。また、『沖縄文化』(沖縄文化協会発行)に宮古島の祝儀文化における交換とその変遷についての論文を投稿する。また、沖縄県の模合については、文化人類学の交換論・贈与論のなかに位置付けながら、その成果を『文化人類学』(日本文化人類学会発行)に投稿する。 また、現地の人々へのアウトリーチ活動として、8月に宮古島市の平良と来間において、模合と祝儀文化に関する研究発表を行い、現地の人々と議論し、成果をシェアする機会をもつ予定である。
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Research Products
(2 results)