2014 Fiscal Year Research-status Report
タイにおけるタトゥーの魅惑と暴力をめぐる人類学的研究
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26370955
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Research Institution | Fukui Prefectural University |
Principal Investigator |
津村 文彦 福井県立大学, 学術教養センター, 准教授 (40363882)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | タイ / 東北タイ / タトゥー / 物質文化 / 身体変工 / 文字 / 文化人類学 / 地域研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、8月6日より9月4日、12月25日より31日、2月10日より18日、2月25日より3月5日と4回にわたって、タイ王国コーンケーン県およびナコンパトム県においてフィールド調査を実施した。要点を以下の3点にまとめる。 1 タトゥーの図案:タトゥーを施す寺院などで、クライアントが図案を選ぶための冊子などを参照して、主に動物が描かれた図案とその効果を収集した。一例を挙げるなら、ノック・サーリカー・リントーン(金色の舌をもつ伝説上の鳥で、語りかけることをすべて信じさせる)、プラーライ・プワック(白ウナギで、敵に捕まえられたときに逃げることができる)、パヤー・ガイ・トゥワン(偉大なる鶏を意味する。闘鶏で掴んだ鶏を勝たせることができる)などである。また図案と価格についても情報を収集した。 2 タトゥーの道具・技術:現在用いられている道具、および過去に使われていた道具についての情報を収集した。木製、金属製、機械式など道具は多様でありながらも、多くは自作であって、使用者によってカスタマイズされていた。最も多く用いられていたのは、ケムサックと呼ばれる木製あるいは金属製の棒に針を取り付けたものである。感染症を防ぐ目的から、針は取り替え式である場合が多く、またインク壺も使い捨て型のものが用いられている。 3 タトゥーの実践:ナコンパトム県の BP寺、およびコーンケーン県ムアン郡の複数村落において、タトゥー実践の現場を観察した。またタトゥーの分布状況について具体的なデータを得るために、氏名、学歴、タトゥー歴、身体の箇所、動機などの基本的情報に関するアンケート調査を実施している。まだサンプル数が少ないが、現段階では、タトゥーを求める人々は20代前半未満、および50代後半以降に集中していることがわかった。 4 ほか見えないタトゥーやルーシー(隠者)との関連など新たな問題が浮上した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初に予定していた、文字と音声との関係、および僧侶と俗人の刺青師へのインタビューについては、おおむね順調にデータを収集している。 タトゥーは身体の私的な部分と密接に関わるとともに、タイにおいてもタトゥーを求める者には社会的逸脱者が多く見られる。そのため、インタビューなどの現地調査を行う際には細心の注意が求められ、調査対象とのあいだに信頼関係を構築することが不可欠となる。その意味で、今年度の調査を通して、東北タイ・コーンケーン県のムアン郡において複数のタトゥー師のインフォーマントを得られたことは重要である。 こうして知己を得たインフォーマントのもとで許可を得ることによって、通常は立ち会いが認められないタトゥー実践を直接観察することが可能となるとともに、タトゥーのクライアントとのあいだでも信頼関係を保ちながら、インタビューとアンケート調査を行うことが可能になった。次年度以降は、初年度に構築した人間関係を活用することで、より効率的なフィールド調査が実現できるだろうと思われる。 一方、同様に調査を行ったナコンパトム県のBP寺など、より大規模で多くの人々に知られたタトゥーで著名な寺院では、普段から多くのクライアントが訪問することもあって、調査者の訪問は疎ましいと感じられているようだった。そうした場所では、短期間の現地調査のなかで信頼関係を構築したうえでデータを収集することは現実的に困難であると痛感した。より広範な視野のもとでタイにおけるタトゥー実践を捉えるためには、広域的に一般情報を収集することは役立つが、ミクロで濃密なデータを収集するには、地方都市や地方村落の寺院などを対象にすべきであることがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の方向性としては、調査対象地域を微調整しながら、アンケート調査にも重点を置いて進めていきたい。 1 「現在までの達成度」で記したとおり、タトゥーが身体の私的な領域に関わる実践であり、社会的逸脱とも連関していることから、調査の遂行においては、タトゥーの実践者およびクライアントとのあいだに信頼関係を構築することは必要不可欠となる。 平成26年度の調査の経験から、バンコク近郊の都市域に位置するタトゥーで著名な寺院よりは、東北タイなど地方に位置して小規模にタトゥーを実践する寺院などの方が、現地調査を行うためのラポール構築が容易であることがわかった。そのため、短期調査しか行うことができない現状では、東北タイのいくつかの調査対象を中心にしながら、インタビュー調査とアンケート調査を継続して進めていくことが望ましい。またタイの調査協力者から、北タイ・チェンマイ周辺でのタトゥーの情報を得ることができた。そうした情報を活用しながら、今後は北タイ地域も調査対象に加えながら、人類学的なフィールド調査を進めていきたい。 2 アンケート調査は、初年度の調査過程で生まれた研究手法である。タトゥー師のもとを訪れたクライアントに対して、年齢、居住地、学歴、動機、タトゥー歴などを尋ねるもので、信頼関係のあるタトゥー師のもとでは安定した情報を得ることができる。現在のサンプル数はまだ20前後であるが、今後はこのアンケート調査を継続させ、データを可視化することによって、現代タイのタトゥーの傾向が明確になるという手応えがある。当初想定していたインタビューに加え、アンケート調査により定量的なデータを蓄積していきたい。
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Research Products
(2 results)