2015 Fiscal Year Research-status Report
タイにおけるタトゥーの魅惑と暴力をめぐる人類学的研究
Project/Area Number |
26370955
|
Research Institution | Fukui Prefectural University |
Principal Investigator |
津村 文彦 福井県立大学, 学術教養センター, 准教授 (40363882)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | タトゥー / タイ / 宗教 / 東南アジア / 呪術 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は2015年8月13日から9月10日まで、および2016年1月11日より18日まで、タイ国コーンケーン県、マハーサラカム県、チェンマイ県にてフィールド調査を実施した。タトゥーを行う仏教僧侶(phra)と宗教職能者リシ(loesi)を対象にインタビュー調査と参与観察を実施した。 得られたデータは、以下の通りである。(1) 呪的タトゥーと護符との関連:タトゥーの呪文や文様の多くは、モノに書き込まれることで護符として用いられる。特にバラモン教的な特徴をもつものは、アタルヴァヴェーダに由来するワトゥ・アタンと呼ばれ、クマントーンなどの呪物とともにタトゥーを行う宗教職能者のもとで制作され頒布される。(2) 女性や未成年へのタトゥー:チェンマイ県ワットスワンドーク寺の僧侶への聞き取りによって、女性や未成年へのタトゥーが特に北タイやミャンマーのシャンを中心に現在も実践されている。特に女性では、ヘビや犬の咬傷除けの呪的タトゥーが多く見られる。(3) リシとモータム・僧侶のネットワーク:コーンケーン県、マハーサラカム県では、特定のリシの僧院(asom)を頂点として、リシや宗教職能者モータム、僧侶をめぐる系譜(知識のネットワーク)について情報を得ることができた。特に東北タイにおいては、3人のリシが中心的役割を果たしていることが明らかになった。(4) リシの僧院での憑依儀礼:コーンケーン県のリシの僧院で毎週の仏日(wan phra)に行われる読経会に参加した。15人ほどが参加する読経会では、30分ほどの読経ののち、リシや参加者が毎回憑依を体験する。リシの信仰と憑依儀礼の関係についてはさらなる検討が必要である。 現代の東北タイのタトゥーの装飾的機能と呪術的機能について論文を執筆し、現在査読中である。また2016年度に開催される複数の学会で成果報告を予定している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度の研究実施計画にあった、呪術的タトゥー(sak yan)とファッションタトゥー(sak faechan)については、東北タイおよび北タイでのタトゥー師へのインタビュー調査において相応の情報を得つつある。現在までの成果はまとめて、2016年2月に学会誌『タイ研究』(日本タイ学会)に投稿済みであり、現在査読プロセスにあり、2016年7月に出版予定である。 そのほか関連する成果のうち、身体に特別な力を取り込むことをめぐってはIUAES Inter Congress(2016年5月)にて学会発表を行った。また見えないタトゥーをめぐっては日本文化人類学会(2016年5月)にて、呪符に関連する呪術的人形の流行については東南アジア学会(2016年6月)にて学会発表を予定しいる。そのため、過去2年間での研究成果については非常に順調に報告を行いつつあるといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度は最終年度であり、上記の成果報告を十分に行っていくとともに、過去2年間で新たに浮上した以下の問いについて、フィールド調査を行いながら、最終成果をまとめたいと考えている。今後の研究方策としては、当初の計画に加えて、(1) ミャンマーにおけるシャンのタトゥー、(2) リシにおけるタトゥー実践とその他の宗教実践との関係、(3) 東北タイにおけるリシの系譜をめぐって、さらなる参与観察とインタビューを重ねる必要がある。
|
Causes of Carryover |
研究活動が順調に進み、翌年度の国際学会IUAES Inter Congress 2016にて、関連する研究者とともにパネル発表を行うことが当該年度中に決定した。ただしIUAES Inter Congress 2016はクロアチア・ドゥブロヴニクで開催され、渡航費に多くの出費が予想できた。そのため、当初の計画に合ったタイでの調査を短くし、最終年度の国際学会での発表に支出することとした。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
2016年5月4日より9日までクロアチア・ドゥブロヴニクにて開催されたIUAES Inter Congressに出席し、渡航費・旅費などで次年度使用額を支出することとなった。
|
Research Products
(5 results)