2014 Fiscal Year Research-status Report
チュニジア民主化革命の展開とその諸課題をめぐる文化人類学的研究
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26370959
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Research Institution | J. F. Oberlin University |
Principal Investigator |
鷹木 恵子 桜美林大学, 人文学系, 教授 (60211330)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 文化人類学 / 民主化革命 / チュニジア / 民主化プロセス / 開発政策の歪み / ジェンダー / アクター |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、アラブの春の発端となったチュニジア革命とその後の民主化過程を文化人類学的に跡付け、その意義を探ることにある。1年目の研究では、チュニジア革命に関する先行研究の文献収集とその読み込みと情報の整理作業を中心に行った。本テーマに関する日本語文献はごく限られているため、外国語文献(仏語・英語、アラビア語)、またインターネットからの情報を駆使して、民主化革命から4年目までの大まかな政治的プロセスを跡付ける試みを行った。 その一方で、革命後の民主化プロセスは、文化人類学的な民衆の生活にまで関心を広げるならば、複雑に入り組んでおり、政治権力の中枢部にいるアクターから周辺にいるアクターまで、また社会経済的階層別や地域ごとでも、多様な展開をみせている。そのため、1年目の作業としては、政治プロセスの概要把握と同時に、個別具体的事例を踏まえた研究も行った。研究対象は、従来の筆者の調査地、南部ジェリード地方で、そこでも革命後のオアシス農地紛争の展開を調べ、分析考察を試みた。この農地紛争の事例は、革命の背景にあったベンアリー時代の開発政策の歪み(構造調整政策やネポティズムなど)と関連しており、その考察はチュニジア民主化革命の背景にある要因を具体的に明らかにすることに繋がり、このテーマでの論文を執筆した。 また民主化過程を、一般的に捉えるのではなく、視座や枠組みを定めて考察するために、ジェンダーの視点から考察する試みも並行して行った。これについては「イスラームと価値の多様性―ジェンダーの視点から」という筆者が主宰していた共同研究会も活用して研究を進め、このテーマでの論文もまとめた。また2015年3月には2週間ほど現地調査を行い、2014年の国民議会選挙と大統領選挙後の新政権下における民主化状況について、イスラーム政党のナフダ党やまた幾つかのNGOなどを訪問して情報収集を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
チュニジア革命後の民主化移行期は、予想以上に長い年月を要し、しかし昨年1月末の新憲法の制定、10月の国民議会選挙、11月の大統領選挙、12月の大統領決選投票、そして2015年に入ってから2月の新政権の発足と、昨年から今年の初めにかけて大きな進展があり、また新政権の発足によって一つの大きな歴史的区切りを迎えた。革命後からこの間、チュニジア革命や「アラブの春」については多数の研究がなされ、このテーマを扱った外国語文献(仏語・英語・アラビア語文献)での出版物の数は膨大である。それらを収集して、読み込むという作業だけでも多くの時間を必要とした。しかし、同時にそれらの作業を通じて先行研究をある程度整理し、また革命後から民主化移行期の概要を捉えることができたことは、研究の進展のうえでは意義深かいものであったと判断している。 またこれまでの筆者の研究調査地との関わりで、オアシス農地紛争とベンアリー政権時代の開発政策の歪みとの関連から、チュニジア革命の背景を分析考察することができ、従来の自分の研究を発展させるかたちで論文としてまとめることができたことは、この研究プロジェクトの進展に繋がることになったと考えている。加えて、ジェンダーの視点から、チュニジア革命と民主化移行期について考察した論文もまとめることができた。 ただし、政治社会情勢の推移や展開は非常に早く、また予期しないことも起き得る。特に2015年3月には、チュニジアの首都チュニスでバルドー博物館襲撃テロ事件が発生し、チュニジアの民主化プロセスでは、また新たにテロ対策という難題をも抱え込むことになっており、こうした新しい展開については今後も継続してのさらなる調査研究が必要となる。 以上のようなことを総合して評価した結果、現在までの研究の達成度は、(2)おおむね順調に進展していると、判断することになった。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度は、先行研究の収集・読み込み・整理と民主化過程の概要把握と、それを踏また事例研究の論文執筆とジェンダーの視点からの研究論文執筆を行ったため、現地調査の十分な日程をとることが難しかった。そのため、2015年度には、文献研究と同時に、新政権発足後の現状を、現地調査に基づき、明らかにする。 具体的な研究の推進方策としては、昨年度の研究を発展させる方向で、一つはジェンダーの視点からの研究を継続することと、またチュニジアの市民社会について調査研究することを考えている。チュニジアの市民社会の活動は極めて活発で、それがこの国の民主化を後押しする重要な役割を果たしているからである。またそれが他のアラブ諸国のなかには民主化過程で内戦や大混乱にも陥っているところもあるなか、チュニジアが民主化の成功例になりつつあることと大いに関係している。そのため、特に革命後に創設されたNGOの事例を取り上げ、調査をする。具体的には、女性NGOの他に、NGO連合であるReseaux associative: Pole Civil pour le Development et Droits de l’Homme、選挙に関する啓蒙や監視活動を行っているATIDE(Association Tunisienne pour l'Integrite et la Democratie des Elections)や貧困失業対策として起業支援活動をしているCIEP(Connect Innovation et Entrepreneurship Platform)、またマイノリティーの先住民の権利推進活動をしているATC (Amazigh Tunisie Coalition)などを対象にそれぞれの活動を捉え、その民主化に果たしている役割を考察・評価してみたい。
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Causes of Carryover |
初年度の研究は、既存の先行研究の文献資料を収集し、それを読み込み、まとめる作業と、幾つかの論文を執筆する作業に多くの時間と労力を費やし、多忙を極めた。そのことから、当初、予定していた調査日数を確保することができず、それよりもはるかに短い日数の現地調査しか、行えなかった。そのため、使用予定の予算額よりも少ない支出に留まった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は、昨年度よりも時間的なゆとりがあることから、海外調査にでかける日数が長くなる予定であることと、また聞き取り調査やアンケート調査をする際には、アシスタントへの支払う人件費も必要となる。さらに昨年度は、主に首都チュニスでの調査であったが、今年度は内陸部や南部にまで足を延ばす予定であるので、そのための交通費などがかなり必要となる見込みであり、敢えて初年度の使用額を2年度目に回させて頂くようにした。
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