2016 Fiscal Year Research-status Report
水田の多面的利用に関する民俗学的研究-「水田文化」の提唱に向けて-
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26370965
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
安室 知 神奈川大学, 経済学部, 教授 (60220159)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 畦畔栽培 / 畦豆 / 水田畑作 / 民俗学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、水田環境の多面的な利用のあり方について、とくに畦畔を利用したダイズ・アズキといった畑作物栽培に焦点を当てて、その実態と技術および歴史民俗的意義を明らかにすることを目的としている。第3年目となる平成28年度は、前年度に引き続き、西日本を中心にさまざまな立地環境のもとにある稲作地を対象に、ある程度広範囲に調査地を設定し、現地に赴いての民俗学的聞き取り調査と県立図書館等での文献資料調査をおこなった。 現地調査は水田生態系が大きく変貌する以前の高度経済成長期前に時間軸を設定し、実際に畦豆栽培を経験している世代を対象にして聞き取り調査をおこなった。また、そうした聞き取り調査とともに、豆植棒のような畦畔栽培に特化した農具が残されている場合には、計測をおこない写真等で映像記録を作成した。さらには、そうした過去の事例だけでなく、近年、村おこし等の地域振興策に伴って復活してきている事例にも注目し、文献データを収集した。 具体的な調査地としては、九州(宮崎県、熊本県、大分県、長崎県)、四国(高知県・愛媛県)、中国(山口県、島根県、鳥取県)を回ったが、畦豆栽培についていうと鹿児島県や宮崎県など温暖な九州南部では生計上の重要度は相対的に低いことが分かった。反対に、九州北部や中国地方では、畦豆栽培が秋の豆名月行事と結びつく例があることがわかった。 また、現地調査に併行して、各地の県立図書館において、自治体史を中心に畦豆栽培に関する文献調査をおこなった。とくに平成28年度は、九州・四国地方の自治体史の中に記録されている畦畔栽培の記述を集成するとともに、前年度から引き続き近世・近代の農書に登場する畦畔栽培の記事についてデータベース化を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
調査地を集落単位で設定したインテンシブな民俗調査はおおむね予定どおり進んではいる。それに対して、日本列島全域を対象としたエクステンシブな文献調査は九州・四国・中国地方をおおむね終えたが、本年度に予定していた近畿・中部地方では一部しか調査が進んでいない。近畿・中部地方においては畦畔栽培の事例が多くみられ、調査と記録及びそのデータベース化に手間取っているためである。
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Strategy for Future Research Activity |
近畿・中部地方の文献調査の遅れを取り戻すとともに、さらに畦畔栽培の事例が多く存在すると予測される北陸・東北地方の調査に着手する。しかし、予想を超える事例がみつかった場合には、東北・関東・北海道地方といった東日本地域を除外して研究のまとめをおこなう可能性もある。
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Causes of Carryover |
平成27年度に予定してできなかった民俗調査について、28年度におこなう予定であったがすべてを補うことはできなかった。また、中部地方の調査では予測より多くの事例が見つかったため、予定どおり調査を終えることができなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度に予定している民俗調査とは別に、28年度までにできなかった調査については早急におこなうこととする。また、予測より多くの事例が見つかった調査地においては、予定日数に加えて補充調査をおこなう。
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