2015 Fiscal Year Research-status Report
聖具消費を通したコミュニティ再編に関する文化人類学的研究
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26370966
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Research Institution | Seijo University |
Principal Investigator |
川田 牧人 成城大学, 文芸学部, 教授 (30260110)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 文化人類学 / フィリピン / 宗教実践 / コミュニティ / 聖具 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、フィリピン・ビサヤ民俗社会におけるカトリック聖具の消費に焦点をあて、モノを通した宗教生活、とりわけ可視性・可触性を特徴とする宗教実践がコミュニティの再編や活性化の源泉となる側面についての記述を通して、宗教実践と社会生成の関係性を文化人類学的に考察することである。このため、当初、以下の三つの研究内容を設定した。(1)聖具消費を通したコミュニティの構造化、(2)聖具を用いた地域シンボルの生成、メディア表象、観光資源化など、(3)同じ聖具を用いた地域間コミュニティ創造の比較研究。 平成27年度は、昨年度調査したアクラン州カリボでの調査が実施できなかったため、セブ州セブ市を中心として、(1)、(2)に関する調査を実施し、セブ市に集中したことで、これまで注目しなかった宗教実践であるKAPLAGについても知見を得ることができた。これは1521年にマゼラン遠征隊によってもたらされたとするサントニーニョの聖像が、1656年にレガスピ隊によって再発見されたことを記念する宗教事例であるが、2015年が再発見のちょうど450周年にあたることから盛大に祝われていた。それまでセブ市においてはSINULOGという都市祭礼に限定して調査していたが、新たな角度からの地域シンボルの演出がみられた。 このほか信徒の実践として、聖像に対する文字祈祷に関する調査研究をおこなった。これは、サントニーニョにかぎらず、キリスト教会に安置された聖像に対し、祈祷を筆記した紙片を奉納する実践であり、リテラシーを前提とした信徒同士のコミュニケーションを予見させるものである。なお、昨年度見いだした自然災害に対するレジリエンスや創発的リアクションのよりどころとしての聖具というポイントも継続的調査課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度記したように、毎年1月に開催されるサントニーニョの祭礼自体の調査が困難となったため、セブ市とカリボ町の祭礼比較調査についてはペンディングしたが、今年度あらたに、カリボ町の調査自体、現地のカウンターパートの関係で、じゅうぶんな日数をとることができなかった。そのぶん、セブ市に集中したことで、(1)コミュニティの構造化、(2)地域シンボルの生成などのトピックにおいて、おおむね順調に展開することができた。すなわち、(1)においては、文字を通して信徒たちがコミュニケーションを深め、直接的対面関係がない者同士が祈祷文に書かれた宗教知識を流通させるような知識コミュニティを見いだした。また(2)においては、「研究実績の概要」欄にも記したように、これまでSINULOGに限定していた研究視点からKAPLAGという別の宗教儀礼へと転じ、これを中心とした地域共同体の自己表象や観光資源化、またはSINULOGとKAPLAG両者の関係の上に立った地域シンボルの生成といった、より立体的に地域コミュニティをとらえる端緒を開くことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
当初掲げた研究目標の(1)と(2)については、おおむね成果をともなった研究経緯となっているが、(3)祭礼そのものを中心とした地域間のコミュニティ創造に関する比較については、その方法を検討しなければならない。とりわけアクラン州カリボ町については、今年度にひきつづき最終年度も現地カウンターパートの状況が好転しない限り、残り1年で現地調査が不十分なまま研究期間を終えるよりも、(3)に関しては観光省のデータなどによる比較研究の方法をとり、(1)(2)において、今年度見いだした調査トピックを深化させるといった方向性を検討したい。 具体的には、聖具が地域シンボルとなり得る回路をこれまでのSINULOGだけに限定するのではなく、より多様な経路を想定しながら、立体的に地域コミュニティを描き出すことや、儀礼実践だけでなく文字の奉納やコミュニティの歴史記録といったリテラシーを介在させたコミュニティをひろくとらえることなどが想定される。
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Causes of Carryover |
昨年度における「次年度使用額」がかなりの金額に達していたので、今年度の総額がかなり増えたことが、まず第一の原因である。また、使用計画において、短期の渡航を重ねる予定を立てたが、現地調査のうち、アクラン州カリボ町における実施は、カウンターパートの事情から実現しなかった分などの余剰が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
旅費に関しては、現地調査のための渡航のかわりに、研究成果発表のための国際学会参加を年度初めにおこなったので、「次年度使用額」のかなりの部分を使用したはずである。じっさいの「次年度使用額」は、もっと少額であるはずであるが、次年度は最終年度であるので、このような「次年度使用額」が生じないよう、現地調査のための渡航に加え、さらに研究成果発表のため、あるいは文献資料収集のための旅費としても使用することを検討する。
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Research Products
(4 results)