2014 Fiscal Year Research-status Report
中国壮族における文字文化の継承についての人類学的研究
Project/Area Number |
26370969
|
Research Institution | Kyoto Gakuen University |
Principal Investigator |
手塚 恵子 京都学園大学, 人間文化学部, 教授 (60263183)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 文字 / マイノリティー / 壮族 / 中華人民共和国 / 識字 / 文化人類学 |
Outline of Annual Research Achievements |
中国に居住するタイ系の民族である壮族の人口は1500万人であり、壮語は危機言語ではないが、中華人民共和国成立後に制定されたアルファベット表記の民族文字である「現代壮文」の制定と普及に際して、関係機関が壮族の人々の文字に対する観念と慣習を理解しないまま事業を進めたために、「現代壮文」の普及が進まない一方で、壮族の伝統文字である漢字系文字「方塊字」を私的な文字としたために、その学習者が減少した。壮族は自らの書き言葉を失おうとしているようにみえる。 本研究は、フィールドワークによって、壮族の人々の文字に関する観念と慣習を明らかにしたうえで、新旧の文字を対比させることによって、壮族に必要とされる民族文字とはどのようなものであるかを考えることを目的としている。 2014年度は、中華人民共和国広西壮族自治区内の2地点(「現代壮文」の標準音に指定された武鳴県、20世紀末まで広西の経済的な中心地であった柳州市)で、「方塊字」の基本的性質(担い手と通用範囲)および「方塊字」と漢字が用途を異にしながら併用されてきた実態を、聞き書きによって明らかにすると共に、伝承されてきた「方塊字」表記の歌本、漢字表記の家譜等を収集した。また、「現代壮文」の普及の過程や、当該者の新旧の文字に対する考えを、その背景を含めて理解するために、聞き書きによって、4人のライフヒストリーを作成した。 この他に、「現代壮文」や「方塊字」に関する文献資料、広西壮族自治区における漢字文化に関する文献資料を収集した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2014年度のフィールドワークについては、ほぼ計画通りに実施できたが、フィールドワークで得られた資料である「方塊字」を用いて記述された「歌本」を電子データ化する作業が、実施できなかった。 実施できなかった理由は、現在中国で「方塊字」を電子データ化するためのIMEの開発が進んでいるが、その完成が2014年度末までに為されなかったために、このIMEを用いて「歌本」を電子データ化することができなかったことによる。
|
Strategy for Future Research Activity |
2015年度は、2014年にフィールドワークを実施した地点において、より詳細な調査を行い、「方塊字」の通用範囲が次のいずれ(親族や歌の師弟関係といった特定のグループ、うたの旋律を共通する地域=婚姻圏、近代化以前の行政区画)に重なるのかを明らかにするとともに、現代壮文の制定・普及にあたった当事者(壮語研究者、学校関係者)から、その制定と普及の過程と現況について、聞き書きを行う。 また「歌本」の制作過程を映像に記録することによって、「方塊字」の記述法についての映像資料を作成する。 なお、研究成果のひとつとして予定している「歌本」の電子テキスト作成およびそのデータベース化には、IMEによる「方塊字」入力が好ましいが、2015年度の中盤までに「方塊字」IMEが完成頒布されない場合は、外字作成による入力法によって電子テキスト化を図る。 2016年度は、2015年度の調査を踏まえて、広西壮族自治区内の複数の地点で比較調査を行い、「方塊字」の系統についての資料を作成する。さらにこれまでに得た資料をもとに、壮族の人々の文字に関する観念と慣習を明らかにしたうえで、新旧の文字を比較しながら、壮族に必要とされる民族文字とはどのようなものかを考察し、その成果を口頭発表や論文として公表する。
|
Causes of Carryover |
(1)2014年度に実施した調査に関わる宿泊費および謝金の会計処理が済んでいないために、本報告に経費を計上できなかったため。 (2)歌本を電子データ化することを2015年度に実施することにしたため、それに関わる機材購入および、入力に対する謝金を使用しなかったため。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
(1)については、会計処理を早急に行い、経費を2015年度分として処理する。 (2)については、歌本の電子データ化を2015年度に実施する。
|