2014 Fiscal Year Research-status Report
贈与に対する法学的アプローチの再検討――フランス法における贈与契約と家族内贈与
Project/Area Number |
26380002
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
齋藤 哲志 東京大学, 社会科学研究所, 准教授 (50401013)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | フランス法 / 比較法 / 贈与 / 家族財産法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、第一に、人類学の贈与概念の検討、第二に、家族内贈与に関する既得の知見の更新に費やされた。第一点については、モース贈与論の再読および近時のフランス人類学の渉猟から、とくに「与えつつ保持する(donner et retenir)」と表現される贈与のメカニズムを考察の対象とした。これにより、贈与目的物に一定の属性が付着せられ、返礼義務が強調される。法は、これを嫌う(法格言「与えつつ保持することは無効である(donner et retenir ne vaut)」)が、家族内贈与に関してはこれを許容する(とくに贈与者による「用益権留保」)。以上の緊張関係を理論的に記述することが、次年度以降、本研究が取り組むべき課題となる。 他方、第二点は、当初の予定では、次年度にこれを本格化させることとしていたが、後掲・業績1の公表、および、代表者所属機関でのサマーセミナー(2014年8月7日、タイトル「家族・財産・法―日本とフランス」)を好機と捉え、前倒しすることとした。とりわけ2004年の離婚法改正の射程を扱い、夫婦財産法と相続法との連関を新たな形で言語化することができた。国際学会参加時になされた複数のフランス人研究者との意見交換の成果でもある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記のとおり、学際的な基礎作業の遂行により研究課題が一層明確に把握された。また、《目標II:家族内贈与の実体解明》についても、次年度に企画されるフランスでの調査を十全に遂行しうる成果が得られている。新たに得られた知見として、2004年離婚法改正における夫婦間贈与の撤回に関する規律の厳格化と、直後の2006年相続法における揺り戻し(婚姻中に効力を生じない贈与に関して撤回の自由を再導入)を特筆しておきたい。「家族関係の危殆化」と「贈与の巻き戻し」とを如何にして関係付けるべきか。フランス法が見せた迷いは、「贈与は契約か否か」を問う本研究にとって格好の素材を成す。2004年法は合意の貫徹を志向したが、2006年法は合意の背後にある人的関係に配慮した。資料が語るところによれば、前者の志向は(意外にも)実務家の支持を受けたという。インタビュー調査によって背景事情を解明しなければならない。なお、目標IIに関する検討が想定以上に進展した分、《目標I:贈与契約史の再構成》に関する作業には一定の遅れが生じている。とはいえ、資料収集は順調に行われており、次年度における挽回は十分に可能である。以上より、「おおむね順調」との自己評価が妥当する。
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Strategy for Future Research Activity |
目標Iに関する相対的遅れを取戻すべく、渉猟した資料を体系的に消化し、「フランス近世における贈与の契約化(またはその試み)」についての理解を深める。尚欠ける資料は、予定されるフランス滞在を機に補充されることになろう。他方、目標IIについては、予定通り、第一次調査を実施する。年度前半はその準備に充てられる。代表者が組織している「フランス家族財産法研究会」を活用する。これらと並行して、非営利社団・財団(この種の団体は贈与の匿名化を通じてその負の効果を中和する)に関する検討を開始する。まずは20世紀初頭の財団法案が対象となろう。その挫折が家族内贈与との軋轢を一因としただけに、一層注目に値する。
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Causes of Carryover |
洋書購入に関して、為替レート変動による差額が生じたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に予定される書籍購入費用に充当する。
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