2014 Fiscal Year Research-status Report
集団的権利としての「民主主義への人権」の規範的正当性と理論的射程に関する研究
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26380008
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
桜井 徹 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (30222003)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 民主主義 / 人権 / 国民国家 / シティズンシップ / 移民 / 入国管理権 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、「民主主義への人権」の主体はいったい誰なのか,という本研究の基礎的課題の検討に着手した。このテーマの考究において導きの糸となるのが,ジェフ・スピナー=ハレヴの論文 "Democracy, Solidarity and Post-nationalism"と,ルソーの古典『社会契約論』である。スピナー=ハレヴは,この論文で,ネーションを民主制国家にやがて組み入れられるべき,すべての政治的共同体の前提となる基盤だととらえる見方と,ネーションは政治的主導者によって創造・操作されるものであることを強調する見方とを対比した。 民主的プロセスを通じた自己決定を求める集団的アイデンティティの範囲をいかにして確認すればよいのか。ルソーは『社会契約論』において,民主制の最も基本的なルールの1つである多数決原理も,共同体の全員一致の合意から生じる人為的規範にすぎず,この合意は繰り返し確認されなければならないと述べた。ルソーは,民主的政治共同体における「人民」という主体の形成に必要な条件は,一定の人間集団が――その生得的・文化的属性の多様性にかかわらず――かかる全員一致の合意を不断に再確認することだと考えたのである。 昨年度は,このようなスピナー=ハレヴやルソーの見解を精査し,「民主主義への人権」の主体となるべき社会的存在の範囲を追究した。その成果が,平成26年6月にゲーテ大学フランクフルト・アム・マインにおいて開催されたシンポジウム「規範性と制度」で発表した「正統な民主主義の一要件としての全員一致」という報告である。この発表は,シュテファン・キルシュテ ザルツブルク大学教授やポーリン・ヴェスターマン フローニンゲン大学教授らから高い関心をもって論評され,充実した意見交換を行うことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ルソーが『社会契約論』において,民主的政治共同体の統治主体たる“人民”を安定的に形成するには,その構成員集団が民主的決定過程に粛々と従う旨の“全員一致の合意”を不断に確認することが必要だと論じたことが,本研究の重要な第一歩をなしている。このことから,リベラルな民主主義国家の成員資格――シティズンシップ――の範囲をいかにして決定し,またそれをどのように安定的に維持するかが,民主的な政治的共同体の安定と発展にはきわめて重要な課題となることが明らかとなる。 このような観点から,平成26年度の後半は,近代的国民国家にとって当然の主権的権利とみなされてきた“入国管理権”の法的妥当性と道徳的基礎を探究するという課題に取り組んだ。その際,重要なカギとなるのが,とりわけ21世紀に入って以来,西欧世界における再三のテロリズムの発生にも深く関与してきた“移民”の存在である。交通及び通信手段の発達した現代においては,政治的・経済的な生活の向上をめざして,とりわけ途上国の国民は,資本や情報と同じように国境線を――時に易々と――乗り越える。しかし,とりわけ文化を異にする移民の大量流入が,受入社会に,文化的・経済的・政治的な強い影響を与え,先進諸国の文化的均質性や福祉国家体制ばかりか,国家安全保障をも揺るがすことが,たびたび問題とされてきた。 平成26年度は,テロリズムを通じて先進諸国の安全保障をさえおびやかすに至っているこの“移民”のダイナミックな現代的特徴に注目することによって,本研究の射程と深みをいっそう伸長させることができた。その意味で,本研究は現在まで,おおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、21世紀に入り、文化的統合、労働市場、安全保障等の多様な領域で、現代世界にインパクトを与えつつある「移民」に、国民国家及びその共同体がいかに対応すべきかという問題を、「国境線の道徳的意義」という古典的テーマと絡めて考察していく。その際には、「主権国家の入国管理権の道徳的基礎を何に求めるべきか」という現代的課題を、シティズンシップ(国籍)の意義の――特にEUにおける――現代的変容を参照しつつ掘り下げることが不可欠になる。もしリベラルな民主主義国家が「移動の自由」という基本的人権の価値に忠実であろうとするなら、外国人の出入国を管理する国家の権限をいかに正当化できるのかという問いは、重くかつ困難な課題であるはずである。 このような課題に正面から取り組むため、本年6月29日、30日にナポリ・フェデリコ2世大学(イタリア)で開催されるシンポジウム「社会的・経済的・環境的復元力」にて、「国家の入国管理権の道徳的基礎――国民国家の復元力?」という基調講演を行うほか、7月1日、2日にベネヴェント大学(イタリア)にて開催されるシンポジウム「法的現象としての多文化主義」にて、「正統な民主主義の一要件としての全員一致」という講演を行う予定である。これらを踏まえ、7月28日からワシントンDCにて開催される第25回IVR(法哲学・社会哲学国際学会連合)世界大会にて、「国家の入国管理権の法的妥当性と道徳的基礎」というタイトルで報告を行う予定である。 これらの口頭発表の機会に、他の参加者と意見交換を重ね、移民人口の文化的・経済的・政治的プレゼンスの拡大が現代の民主主義国家に与える影響力と難題を深く抉り出し,そこから,リベラルな民主主義国家は自らの成員資格をどのように画定すべきなのかという本研究の中心的課題の探究をさらに進めたい。
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Causes of Carryover |
前年度中に研究計画どおりパソコンを1台購入する予定であったが,新モデルの発売まで予想以上に時間がかかり,購入予約はしていたものの,結局,年度内に納品されなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
購入予約していたパソコンはすでに,4月27日に納品され,検品も済んでいる。
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