2015 Fiscal Year Research-status Report
女性幹部警察官登用とその含意-日・英・比三カ国比較の視点から
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26380015
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
吉田 如子 (原如子) 明治大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (70533967)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 警察 / ジェンダー / 女性 / 幹部 / 南アフリカ / フィリピン / 日本 / 組織 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、昨年度のフィリピンに引き続き、日本と南アフリカにおいて調査票調査と面接調査を実施した。 本年度は英国での調査を予定していたが、ヨーロッパにおけるテロを巡る治安情勢の悪化から、今年度は実施困難と見込まれたので、アパルトヘイト廃止以後様々な問題を抱えながらも市民的警察のあり方を模索し、女性が国家警察の長官を務めた南アフリカが、日本、フィリピンとの比較にふさわしいと考え、英国ではなく南アフリカでの調査を実施することとなった。 調査票調査については、まず、日本の比較的大規模な都道府県警察において、警部階級以上に属する女性警察官20名以上および同等の階級に属する男性警察官50名を対象に実施した。これにより、幹部階級に属する男女警察官の回答を比較することが可能となった。南アフリカにおいては、日本でおおむね幹部と見做される警部階級に相当する上位10%以内の階級に属する女性警察官30名に対し、南アフリカKwazulu-Natal大学のGopal博士を通して調査参加依頼を行い、現在のところ15名から調査票の返却を受けた。博士によれば、さらなる調査票の返却が見込まれるとのことである。 面接調査については、日本においては、調査票調査を実施した大規模県警および小規模県警の警務課の課員を対象に、女性警察官の登用政策等について面接調査を実施した。この際、小規模県警において、幹部女性警察官に対する調査票調査実施の内約を得た。南アフリカにおいては、ツワネ地方警察の警察学校における研究会、また、南アフリカ国家警察による、大学における警察官教育のあり方についての会議に出席した際に、男女の幹部警察官、大学研究者に対して面接調査を実施した。 成果物としては、『社会安全・警察学』2号において、女性警察官採用の理念的意義、これまでの女性警察官を巡る経験的研究について論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、女性の高階級への登用が進んでいるという点で先進的だと考えられる各国と、未だ警視階級への登用が希である日本を比較し、女性幹部警察官の登用実態、その背景事情を理解した上で、女性幹部警察官の登用の警察組織に与える影響を理解するために、文献収集、調査票調査、面接調査を各国において実施するものである。 本年度は、文献収集とその分析については予定通り進んだものの、調査票調査、面接調査については変更を余儀なくされた。女性幹部警察官登用の先進国の一つと位置づけていた英国での調査の本年度実施が、治安情勢の変化により事実上不可能となったためである。しかし、情勢変化の可能性は認識していたため、前もって依頼していた南アフリカにおいて、調査票調査、面接調査を実施することができた。加えてGopal博士の紹介により、当地での幹部警察官、犯罪学関連分野の大学研究者による会議に参加することができ、様々な立場からの女性警察官登用についての意見を聴取することができた。日本においては、女性幹部警察官に対してだけではなく、男性幹部警察官に対しても調査票調査を実施することができたので、比較対照によって分析を深化させることができた。 したがって、当初の研究計画からは一部変更を余儀なくされたものの、研究の目的を充分に達成するための調査は実施しており、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は本研究の最終年度であり、前年度までの調査、資料収集の補完と成果発表を行う。 調査の補完としては、①フィリピンにおいては、昨年度の調査票調査、面接調査において協力してくれたGutierrez教授の助言にしたがい、警察関係の行政文書などの文献をさらに収集、②日本においては、女性登用が少ない小規模県警察での調査票調査、面接調査を実施し、日本の中でもさらに女性幹部警察官の登用が遅れがちな背景を理解し、③南アフリカにおいては、平成27年度に回収できなかった調査票を回収し、Kwazulu-Natal大学のGopal博士の協力を得て、女性幹部警察官や大学研究者を対象に面接調査を実施し、女性幹部警察官の登用が警察組織に与える影響の理解を深める。 成果発表としては、平成28年5月に日本法社会学会、平成28年7月には国際社会学会で成果の発表を予定している。学会においては関連分野の研究者との議論を通じて、分析を深め、学術誌への投稿等によって成果の発表を行う予定である。
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Causes of Carryover |
本研究計画においては、日本、フィリピン、英国において女性幹部警察官を対象とした調査票調査、面接調査を実施する予定であったが、ヨーロッパの治安情勢の変化により、英国を対象とした調査実施は困難となった。そこで、比較対象として有効と考えられる南アフリカでの調査を開始したが、当地は治安も悪く交通手段が限られており、現地の研究者の協力なしには調査が困難であるため、一度の訪問では、調査票調査と面接調査の両方を充分に実施することは難しいとアドバイスを受けた。そこで、平成27年度は調査票調査をまず実施し、平成28年度に面接調査の一部を延期することとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度に、南アフリカのダーバンを訪問し、Kwazulu-Natal大学のGopal博士の協力を得て、女性幹部警察官および研究者等に対する面接調査を実施する予定である。
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