2016 Fiscal Year Research-status Report
日本中世法における判決と証拠の関係に関する法制史的研究ー「裁判規範」の再検討ー
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26380021
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
西村 安博 同志社大学, 法学部, 教授 (90274414)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 日本中世 / 裁判規範 / 証拠法 / 下知状 / 訴陳状 / 召文違背 / 徳政令 / 売券 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)本研究は、日本中世の裁判手続過程において裁判所が勝訴者に下付した「判決文書」および判決前に訴訟両当事者が応酬する中で交わした「訴状・陳状」を主な素材として、「判決の理由・根拠」と、訴訟両当事者による「主張の内容」および主張の根拠とされた「証拠」の間には如何なる関係があるのかについて法制史的に解明することを目的とする。 (2)本年度においては昨年度に引き続き、本研究初年度において着手した主たる研究課題である「判決」と「訴訟両当事者の主張の根拠」の関係如何の問題を解明するための基礎的な作業を継続した。この中では、鎌倉幕府の裁判における「判決文書」の中でも、昨年度より具体的な内容の解明に取り組んでいる関東裁許状に加えて新たに、六波羅裁許状をも検討の対象に据えることにより作業を進行させた。 (3)その成果の一部として得られた論文「鎌倉幕府の裁判における召文違背について─関東裁許状を主とする関係史料の整理―」(『同志社法学』第69巻2号、2017年6月刊行)では、召文違背に関する学説史をあらためて整理し直すとともに、関東裁許状およびこれに関連する訴陳状を素材として召文違背に言及した判決内容および訴訟当事者の主張内容の一部を抽出することにより、その全体的な理解を得るべくまとめるに至った。 (4)その一方では、日本中世の人々は法規範なるものをどのようなかたちで受容していたのかを探るための一つの試みとして、特徴的な法規範の一つである「徳政令」を素材に売買と質の関係を法律上どのように定義すべきかなどの問題に取り組む中で、中世後期以降における私法的世界の形成の可能性を指摘し英文論文として公表した(Article“Moratorium in Japanese Medieval Law”,『法政研究』第83巻第3号=直江眞一教授・柳原正治教授退職記念論文集、2016年、pp.658-639)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
(1)前提となる学説史に関しては、宝治元(1247)年十二月十二日附・鎌倉幕府追加法第260条に関して「訴人の理非に関係なく、常に訴人の申状に任せて成敗あるべき旨を定めた」条文であると理解し「御成敗式目の規定を改廃した」「召文法史上画期的な」ものであるとした石井良助博士による通説的理解はもはや成り立ち得ないこと、建長四(1252)年頃に幕府は召文違背そのものに対して新たに処罰する方針を打ち出したとする佐藤進一博士の見解についても一定の留保が必要とされること、などがあらためて確認されたが、その中でも石井説を前提にして、「不論理非」の論理の存在を指摘した植田信廣論文などは検討の余地が大いに残されていることが確認された。以上は、本研究課題を進めていくための重要な指針であり、一定の成果に繋がることが期待される。 (2)しかしながら、実証的な作業のについては少しく後れを取っている。その理由はまず、本研究課題の補助的な研究の役割を担う「徳政令」に関する研究成果をまとめるために一定の時間を要したことにある。その成果は「書評 井原今朝男著『中世日本の信用経済と徳政令』」(『法制史研究』第66号、2017年)および上記英文論文である。そして、日本法の特色を世界に発信するための必要な視点に関して英語で講演する機会を与えられ、その準備に相当の時間を費やしたことにある。講演は2016年12月15日、同志社大学今出川校地で開催された同志社大学大学院法学研究科主催の国際シンポジウム“Legal Education in the Context of the Globalization”の中で行われ、題目は“Some aspects of the Japanese Legal History for studying the Japanese Law in Global Context” であった。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)当初の研究計画の主旨に沿うかたちで、主たる研究課題を「召文違背」(「召符違背」)に関する訴訟事案に絞り込むことにより、鎌倉幕府の裁判規範に関する実証的な解明へ向けた準備作業を進めることにする。 (2)具体的には、前年度に引き続き「召文違背」および「召符違背」に関する事案を扱った六波羅裁許状を主たる対象史料とするとともに、合わせてそれぞれの事案に関連する訴陳状を蒐集・整理することにより、該当文書において「召文違背」に言及されている箇所の抽出を行いながら、争点を整理するための準備作業を進めていきたい。 (3)六波羅裁許状に関する作業を進めるにあたっては、本研究課題が主たる対象として位置付ける所務沙汰をめぐる訴訟事案に加えて、とりわけ14世紀初頭以降の畿内で跋扈する悪党をめぐる事案を主とする検断沙汰に関する複雑な訴訟事案についても検討の対象に含める必要がある。後者に関しては近時、市沢哲・木村英一・熊谷隆之・西田友弘の四氏をはじめとする最新の研究成果が公表されており、それらからあらためて多くの知見を得る必要がある。また、参照すべき刊行史料集として『鎌倉遺文』(補遺編・東寺文書)第一巻~第四巻および『同』(補遺編・尊経閣文庫文書)を新たに加える必要がある。 (4)六波羅裁許状に関する作業を具体的に進行させていく中では、上記の事情が背景にあることにより作業の難航が予想されるが、次年度中には可能な限りその成果を公表出来るように努めたい。そして、締め括りとしては、鎮西探題や神領興行法に関する研究史を辿りながら、鎮西裁許状に関する作業を可能な限り早期に開始したいと考えている。その一方では、本研究の初期段階で着手したまま中断したかたちとなっている和与の下知違背をめぐる訴訟事案および私和与に関連する訴訟事案についても検討作業再開の余地を模索したいと考えている。
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Causes of Carryover |
ほぼ全額を使用したが、計画していた資料調査の訪問地および日程を変更したことにより、旅費の一部が残ることになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度の旅費に加えて使用する。
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[Presentation] Moratorium in Japanese Medieval Law2016
Author(s)
NISHIMURA Yasuhiro
Organizer
International Conference on ‘Surety and Security’ held by the Tokyo Cambridge Law Seminar 2016
Place of Presentation
St Catharine's College, University of Cambridge, U.K.
Year and Date
2016-08-30
Invited
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