2014 Fiscal Year Research-status Report
イギリス地方行政における「自治権」保障に対する行政争訟制度の役割に関する研究
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26380029
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
長内 祐樹 金沢大学, 法学系, 准教授 (00579617)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | イギリス地方自治法 / 行政事件訴訟 / 法律上の争訟 / 自治権 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、早稲田行政法研究会、北陸公法判例研究会等に参加し、自治体の出訴権に関する日本並びにイギリスにおける仕組みの相違についての知見を広げることができた。 また、主として、戦後日本において自治体が出訴した(行政)訴訟、及び自治体の出訴権にかかわる学説等の文献収集及び検討を行った。 その結果、まず第一に、日本国憲法の施行から今日に至るまでの間に実際に提起された争訟の数を見る限り、自治体と国との間の争訟はわずかであること、その要因として、行政実務上で、都道府県・市町村を国の組織の一部とみなすような明治憲法下の考え方が日本国憲法の下でも広く残存しているという事情に加え、裁判実務や学説において、自治体と国との関係を行政内部法関係として把握し、両者間の紛争に対する司法的介入について消極的な立場をとる伝統的理解が今日なお強い影響を及ぼしているという事情が存在することが明らかとなった。また第二に、こうした伝統的理解は、裁判実務上、依然として影響力が強く、例えば、自治体が私人を被告として行政上の義務の履行の確保を求める訴えが法律上の争訟にあたらないとした宝塚市パチンコ店等規制条例事件最高裁判決(最判平成14年7月9日民集56巻6号1134頁)以降、同判決に依拠し、自治体が他の自治体や国を被告として訴えを提起した場合にその法律上の争訟性を否定する裁判例が存在する。 しかしながら第三に、司法権の概念を、国民の裁判を受ける権利と表裏一体の関係にあることを前提に、司法権=法律上の争訟=主観訴訟ととらえ、行政権の主体としての自治体の出訴権を否定する伝統的理解は、必ずしも理論的に完全なものではなく、批判的検討の余地があること、そのため、第四に、近年では、行政権の主体としての自治体に出訴権を認める可能性を提唱する学説が憲法学、及び行政法学において提唱されていることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、本科研の主たる研究対象である自治体の自治権に関する司法救済制度からのアプローチの一環として、まず日本における現状整理を行った。他方で、比較法的検討としてのイギリスにおける自治体の自治権保障に関する司法の役割に関しては未だ検討の途に就いたばかりである。 しかし他方で、イギリスにおける仕組みを検討する際の比較・検証基準としての日本の現状を明らかにできたことから、研究初年度の進捗状況としては、概ね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度も、まず学会や研究会への参加や文献収集を通じて、本研究テーマに関連する情報を積極的に得る。そのうえで、イギリスにおける自治体の自治権保障に関する司法の役割に関する検討を本格的に進める。 来年度の研究費については、物品費としての40万円分は、概ね資料収集のための書籍等に充てる予定である。旅費としての10万円分については国内での研究会、学会等への参加に充てる予定である。
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