2015 Fiscal Year Research-status Report
自己株式の取得および処分に関連して生じてきた新たな課税問題に対する現代的考察
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26380041
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
渡辺 徹也 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (10273393)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 自己株式 / インセンティブ報酬 / 損金算入制限 / 租税回避 |
Outline of Annual Research Achievements |
企業は、自己株式を取得した後、それを役員に対するインセンティブ報酬として処分する場合がある。インセンティブ報酬は、大きく分けて、業績や株価といった一定の指標に基づいて金銭を交付するものと、エクイティ・ベースによるものがあり、エクイティ・ベースによるものは、株式を付与するもの(株式型)と、株式を購入する権利、すなわちストック・オプションを付与するもの(オプション型)とに区別されるが、本課題との関係では、エクイティ・ベースの株式型が問題となる。株式型の典型例が、いわゆるリストリクテッド・ストックであり、一般的には、一定期間の譲渡制限が付された株式報酬と説明される。 リストリクテッド・ストックについては、役員側の課税について幾つか裁判例があり、現段階では、所得種類としては給与所得、課税時期としては制限解除時とするものが多い。これはストック・オプションに関する最高裁平成17年1月25日判決と同様の考え方に立脚しているように思われる(ただし、リストリクテッド・ストックに関する個々の契約条件により結論が異なる場合がありうると考える)。 本課題との関係でより重要なのは、法人側の課税である。すなわち、自己株式を処分した法人側で損金算入ができるか否かという問題がある。課税上、自己株の処分は新株発行と同じように扱われることを原則とするならば、一見、損金算入はできないようにもみえる。しかし、役員側は法人から給与を支給されたとして課税されるのであるから、損金算入が一切できないというのもおかしい。実際、アメリカ法では給与として課税された金額と同額の損金算入が認められている。 平成28年3月31日までの法人税法34条を前提とする限り、損金算入は一切できないと考えるべきであるが、平成28年度改正により一定額の損金算入が可能となると予想される。しかし、その金額は役員が課税された金額と同額ではない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
自己株式処分を含めたインセンティブ報酬に関する課税関係(損金算入)は、当初、ここまで大きな問題になるとは認識していなかったが、平成28年度の税制改正で取り上げられたことからみても、本課題との関係で必ず検討しておくべき対象であった。その意味では、平成27年度において扱うことが適切であったと思われる。ただし、この問題は、法改正後の検討も重要であり、ここで終わりにするのではなく、引き続き考察の対象としておく必要がある。 同時に、本年度に一部検討しておくべき課題であった資本金基準については、来年度に扱うべき部分が残ったことになる。しかし、本年度においても、既に中小企業向け特例措置との関係で少しは検討しているので、大きな遅れが出ているというほどのことではないと認識している。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、前年度からの課題として、平成28年度法人税法改正における54条関係の検討があげられる。政府の「平成 28 年度税制改正の大綱」を読む限り、法人税法34条1項2号(事前確定届出給与)に関する改正が行われ、一定程度の損金算入が可能になる。また、「その役務の提供に係る費用の額」の意味するところが同改正前法人税法54条1項と同じであるなら、同項と同じような損金算入の方式となることが予想されるので、このような課税方式が(アメリカ法とも比較して)論理的であるかどうかを検討することになる。また、債務確定基準からの検討も重要である(法人として譲渡制限株式を渡した段階で債務が確定しているかどうかが論点となる)。 次に、資本金基準の問題がある。外形標準課税以外にも、法人税法では、通常より低い法人税の税率、特定同族会社の特別税率(留保金課税)の不適用、交際費等の損金不算入制度における定額控除制度、欠損金の繰戻しによる還付制度、貸倒引当金の繰入れ等において資本金基準が用いられている。一方で、資本金の額が5億円以上である大会社の100%子会社には、当該子会社の資本金の額が1億円以下であっても、軽減税率等の適用を行わないような改正が行われている(平成22年度改正)。したがって、大会社としては、資本金を減額して5億円未満にするインセンティブが働く。さらに1億円以下にまで資本金を減額させると、子会社どころか、親会社自身が中小企業特例の対象になるので、これらについて資本金基準のあり方を検討する。 続いて、国際課税の観点から、自己株取得が問題になるかどうかを考える。特に近年の問題であるBEPSおよびOECDのプロジェクトから示唆を得ると共に、つい最近、話題となったパナマ文章についても、本課題との関係で取り扱うべき項目があるかどうか調査を行う。そして、最後に最終年度にあたり研究全体とまとめる作業を行う。
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Causes of Carryover |
発注した書籍の到着が遅れ支払がまだ終わっていない部分があるため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記書籍が届き次第、支払を適正にすませる予定。
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Research Products
(10 results)