2014 Fiscal Year Research-status Report
ポスト新自由主義時代のペルーにおける憲法裁判の理論と実態に関する比較研究
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26380042
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Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
川畑 博昭 愛知県立大学, 日本文化学部, 准教授 (50423843)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 憲法裁判 / ペルー / 法の憲法化 / 政治の憲法化 / 新たな立憲主義 / ポスト新自由主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
2000年代からの「ポスト新自由主義時代」のペルーにおける憲法裁判活発化の背景には、1990年代初めから徹底された新自由主義社会政策の歪みや矛盾への対応という側面が強い。それゆえ、憲法裁判の発祥の地である非欧米であるペルーの展開過程を対象とする研究には、制度史的には同じ位置にある日本にとって比較的視点から豊富な素材が提供される。 2014年度は1回の現地での調査および資料収集をおこなった。現地研究者の意見交換を通じて、近年のペルーの憲法裁判所の動向には、社会的弱者を救済する判例を積み重ねと、それによって他の国家機関の活動を規制する積極的役割が見て取れる。この国の憲法学はこうした現象を「法の憲法化(Constitucionlaización del Derecho)」や「政治の憲法化(Constitucionalización de la política)」、さらには「新たな立憲主義(Neoconstitucionalismo)」の概念で論じている。以前、元ペルー憲法裁判所判事が、2000年以降のペルーの同裁判所が、権利の救済の裁判的保障が行き届いていない地方においても自らの役割を周知する広報宣伝活動を展開していると語った点を考え併せると、現在のペルーの憲法裁判は、ロジスティックな面から判決内容へと視点をシフトさせて捉えるのが適当である。積極的な権利保障に乗り出す判決によって、自らの存在を強くアピールする結果となっているとも言える。 今年度はこうした状況に至るペルーの憲法政治状況の前提についての論文発表をおこなったことから、次年度はじめには、1年目の現地調査を踏まえた成果をまとめる予定である。現地で予定していた研究者との意見交換が実現できなかった不測の事態を別とすれば、ほぼ予定通りの研究課題の遂行ができたと思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
近年のペルー憲法学における議論は、2000年代以降のこの国の憲法をめぐる政治過程に対して積極的な役割を担ってきている憲法裁判所の活動を根拠とする。1990年代後半は政治権力による介入によって裁判所そのものの機能が課題であっただけに、活動の実態の把握が非常に重要であった。「ポスト新自由主義時代」の認識枠組みで対象を捉えるべきだとする所以であるが、この時期はペルーにおいて、1990年代の徹底的な新自由主義の「成果」が現れる段階でもある。この点に関して、ペルー問題研究所のクエンカ主任研究員(社会学)は、現在までの経済成長がペルーの政治社会状況を捉える大前提となると述べる。 ルビオ教授(カトリカ大学長・憲法学)によれば、伝統的な上意下達の裁判所文化が存在しない憲法裁判所判事の構成形態によって、市民がこの裁判所の有効性に期待を寄せ、訴訟件数の増加に現れ、延いては同裁判所の権利救済型判決によって、人権保障の積極的役割が際立つようになってきた。同氏は、ペルー憲法裁判所の役割を社会学的側面から捉える憲法論は皆無に等しいことから、同裁判所の違憲確認訴訟判決を「市井の人々の日常問題の解決」という観点から分析し直すことで、この裁判所がここ10年ほどの間に得てきた人権保障機関としての性格への支持と、それによって同裁判所の判決が事実上もちうる規範性の実体を明らかにできる道筋があると述べる。こうした視点を得られたことは、1年目の調査結果としては大きな収穫である。同時に忘れられてはならないのは、活況を呈するペルーの憲法裁判論の背後には、伝統的な通常の司法権が、1990年代末の制度改革にもかかわらず、市民の不信感を払拭しえなかった制度史上の問題である。この点を射程に入れた分析が、次年度以降の課題である。課題遂行はおおむね順調であると言ってよい。
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Strategy for Future Research Activity |
2000年代の半ばより、ペルー憲法学の議論が明らかに憲法訴訟論にシフトし、10年後の今日において、「法の憲法化」や「政治の憲法化」が語られ、「新たな立憲主義」概念による議論が主流を成す。「立憲主義」を「新たな(Neo)」概念として定式化する場合、新旧の概念上の異同を明確にする作業が欠かせない。この点において、内と外からの2つのアプローチを今後の方向性とする。1つが、ペルーの憲法訴訟法と憲法裁判所組織法のより体系的理解に基づき、如上の判例分析の課題を遂行することである。前者は渡航前の準備として設定していたものであるが、この点についてはなお、改善の余地がある。この法制度の体系性は、2つ目の外からのアプローチをも規定する。憲法裁判所に対する肯定的評価の1つの根拠として、判事の任命に対する市民やメディアの監視力が強く作用しているからである。 このように見れば、ペルーにおける「新たな立憲主義」が、国民による権力(民主主義)をも縛る規範としての性格を前面に出す「従来の立憲主義」とは一線を画し、国家権力に対する社会の監視能力に現れる民主的権力の結晶体として憲法が措定されている点をつかみ出すことができる。 以上の点をまとめ、2015年度中に、(1)『公法研究』(日本公法学会)、(2)Revista de Estudios Constitucionales, Revista de Estudios Politicos (Centro de Estudios Politicos y Constitucionales, Madrid)、(3)Pensamiento Constitucional, DERECHO PUCP (Pontificia Universidad Catolica del Peru, Lima)に投稿予定である。
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Causes of Carryover |
当初は2度の現地調査を予定していたが、現地研究者との日程が合わず、1回のみの旅費が執行されたことが最大の理由である。もっとも、研究を進めて行くなかで、本研究課題に通じたスペインの研究者を招き、国内の研究会等で共同発表をする必要性が生じたことから、この部分の予算を謝金として執行した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
可能な限り、次年度の現地調査を2度おこないたいと考えており、この分の旅費に充当する予定である。
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Research Products
(4 results)