2014 Fiscal Year Research-status Report
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26380043
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Research Institution | Prefectural University of Kumamoto |
Principal Investigator |
上拂 耕生 熊本県立大学, 総合管理学部, 准教授 (40405569)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 比較法研究 / 行政訴訟 / 行政法 / 中国 / 公法学 / 司法的救済 / 共通的制度 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、中国の行政訴訟法の対象として、比較法制度論的アプローチにより、日中行政法の共通的理論・制度の構築に関する研究を進めるものである。 研究初年度に当たる平成26年度は、以下のことを行った。(1)中国の行政訴訟法の現状と問題等に関する学界および司法実務界の議論を整理した。(2)10月に山東大学と北京大学を訪問し、中国語文献を収集するとともに、中国人行政法学者・実務家との意見交換を行った。(3)日本の行政訴訟に関する理論および実際的動向を踏まえて、日中行政訴訟制度の比較法的考察を行い、争点の整理を行った。とりわけ、10月の中国訪問では、現地でしか入手しえない貴重な文献を取得するとともに、行政訴訟その他行政法に関連するテーマについて、有意義な意見交換を行うことができたと思われる。 そのような中、中国の行政訴訟法の改正案が決議された(2014年11月)。改正行政訴訟法は2015年5月より施行される予定である。急な動きであったが、当初の研究計画を少し修正し、対応することにした。すなわち、当初は上記(1)(3)を踏まえた研究論文を執筆し公表する予定であったが、議論よりも実定法の改正が重大な影響を及ぼすことから、中国行政訴訟法の改正案を翻訳し、改正のポイントとその特色・問題点を概説的に整理した研究論文を執筆し公表した(2015年3月紀要『アドミニストレーション』第21巻2号所収)。 今後は改正法の重要な論点について、比較法制度論的アプローチにより研究を進展させ、研究目的を達成したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
中国(北京市・済南市)に渡航し現地調査を行い(2014年10月)、文献収集・意見交換等を行うことで研究を行うための必要な資料を得ることができた。これに、国内で入手可能な研究資料を踏まえて、必要な研究を最低限度行うことができた。 但し、(ある程度予想されたことではあったが)行政訴訟法の改正案が可決されるという急展開があり、当初の研究計画を修正することを余儀なくされたが、議論の状況を踏まえた上での「立法化」(=改正法の成立)であるので、改正法の内容を概説的に整理することで対応した。 研究の中間報告として、研究論文を執筆することを目標としていたが、結果的には、改正法の翻訳・概要に関する研究論文を、紀要『アドミニストレーション』第21巻2号で発表することができ、初年度の研究計画(中国の行政訴訟制度の問題状況を整理しまとめること)をほぼ達成できたとみることもできる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究2年目に当たる平成27年度は、中国の行政訴訟法の改正論議に関する具体的な争点をピックアップして研究を進めていきたい。具体的には、以下の2点。 (1)「規範性文書」に対する司法審査。今回の改正で、「抽象的行政行為」(行政立法行為)のうち、行政法規、規章を除く行政規範性文書については、その適法性審査を原告側が求められる方途が明文化された。この論点に関して、①法治行政原理との関係(立法機関による統制)、②司法統制(人民法院による司法審査)、③民主的統制(聴聞=立法参加手続)の点から考察を深めていく。 (2)行政事件における司法の独立を確保することにより、救済の実効性を高める(「受理難」「審理難」「執行難」という「三難」を解消する)ための制度改革について、比較法制度論的考察を行う。 (1)は法令審査権、(2)は司法の独立という中国の立憲主義上の最大の議論の1つであり、これに関わる論点について比較検討をすることは、中国法研究上の大きな意義を有する。また、(1)については、規範性文書≒裁量基準(日本の行政法学でいう)として、(2)については、行政訴訟の利用を用意するするための諸制度との比較という点で、それぞれ比較法制度論的なアプローチで研究を進めることで、日中の共通的制度・理論の構築に関する研究に寄与することにしたい。
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Causes of Carryover |
主な理由としては、以下の2点が考えられる。 (1)中国への渡航にあたり、交通費と宿泊費を科研費より支出することを予定していたが、現地での宿泊費と国内移動費については、個人的に親しい教授の好意により、当教授の研究費により支払われたため。つまり、自己研究費での負担が随分と軽減されたのが何よりの要因である。 (2)中国の行政訴訟法改正案が可決され、これに関する資料の収集(インターネット上での検索)が多くなった。その分、日本の行政訴訟の議論を整理するための研究時間がなくなり、したがってそれに必要な書籍等の購入が減少したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度においても、経過観察の観点から、中国に渡航し現地調査をする予定である。とりわけ、10月に北京大学での学術研究会が予定されているため、北京を訪問予定である。また、地方都市の状況も知りたいので、湖北省や湖南省への訪問を検討している。つまり、現地調査をより充実させるため、また、中国の大学からの好意(宿泊費等の負担)については、今年度は考えられないため、助成金部分はこれに当てたいと考えている。 さらに、研究を遂行するためには研究資料が必要であるから、必要不可欠な文献を引続き購入していく。
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