2017 Fiscal Year Research-status Report
行政責任の拡大とそれに伴う損害の法的調整に関する日仏比較研究
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26380052
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
北村 和生 立命館大学, 法務研究科, 教授 (00268129)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 公法学 / 国家賠償法 / 行政法 / フランス法 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度は、昨年度に引き続き、フランスおよびわが国の行政責任の拡大とその問題点について考察を行った。 第1に、わが国の行政責任拡大の類型として、国民への情報提供義務や説明義務に関する研究を行い、近時の国家賠償訴訟に関する下級審の判決をいくつかの類型に分類・整理し、情報提供義務が成立するのはどのような要件が充足する場合か、及び、その義務違反が認められるのは、どのような場合かにつき、研究を行い、論文として公表した。公表した論文に示したように、行政の情報提供義務は二つの類型に分けることができ、行政と私人間に一定の接触関係(契約や処分の申請手続)が存在する「接触型」の類型と、特に接触関係が存しないが、私人を一定の危険から保護するために情報提供が義務付けられる「危険管理型」と呼ぶべき類型に分けられ、それぞれの類型において情報提供義務の成立要件等が異なる。逆に、一定の共通性も見られ、現代社会での行政の情報提供義務のもつ意義を示すものと考えられる。 第2に、フランス法に関しては、メディアトール薬害事件の国家賠償訴訟に関して、一定の整理を行った。特に、昨年度は時期的な理由で資料収集等が十分ではなかったと考えられる、2016年11月9日にコンセイユデタが下した判決(行政の権限不行使を理由とした国家賠償責任を認めた)についての整理や分析を行った。同判決は、薬害事件における権限不作為の違法の例として興味深い素材を提供するものであるが、それだけではなく、行政と規制を受ける直接の加害者の責任割合においても、興味深い判断を示しており、わが国の訴訟との比較に意味があることを明らかにした。行政と直接の加害者の責任割合は、行政責任の拡大と関連を有するが、わが国でも通説的見解のない分野であり、訴訟においても区々となっているところがある。この分野においてもフランス法の知見が意義を有するものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、わが国とフランス法とを比較研究するものであり、2つの主要領域があることから、それぞれにつき整理しておく。 既に論文を公表しているわが国の政責任の拡大と国家賠償請求に関する分野については、研究は順調であり、近時の新たな判決の整理と分析が必要な段階になっているにとどまる。したがって、研究は計画通りきわめて順調に推移しているということができる。 フランス法に関する領域についても、メディアトール薬害事件判決等については順調に分析が進んでいるが、テロリズム被害に関する国家賠償請求のような新たな分野については、2017年度末でも資料整理がややできていない部分がある。今後1年間でこれらの点についても研究を進める予定であるが、上記の第1の領域ほどは順調とは言えないところがある。 したがって、全体としては、本研究はおおむね順調に進んでいると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究においては、2018年度は最終年度でもあることから、各分野での研究の整理を図り、以下のように,研究を進めることとする。 第1に、フランスの行政判例の分析については、2017年度は、コンセイユデタ判決を含むメディアトール薬害事件のコンセイユデタ判決を中心に、行政責任の拡大を検討した。本年度は、最近の訴訟において、フランスの行政責任の拡大に関して争点となっている、犯罪やテロリズムに対する規制権限の不作為に関する判決を取り上げ、行政責任の拡大と、それに対する司法的統制につき研究を行うこととする。これらのテロリズムに対する行政の権限行使は、かつては広く裁量が認められる事件であり、国の損害賠償責任が認められるケースはそれほど多くはなかった。しかし、近時は、テロリズムの被害者による国家賠償請求が行われる事例が見られるようになっている。そして、これらの事例に関わって、「重大なフォート(faute lourde)」が問題になる判決も見られる。本年度は、このような方向での研究を進め、最近のフランス行政判例における行政責任の拡大と国家賠償責任に関して、一定の整理を行うこととする。 第2に、わが国の行政責任に拡大についての研究として、最近の事例として、原発避難訴訟や自然災害に関する国家賠償訴訟を中心に研究を継続する。これらの分析を行い、上記のフランス行政判例との比較を試み、行政責任の拡大が、国家賠償責任に対してどのような影響を与えてきたのか、また、今後それがどのように展開していくかについても明らかにしていくこととしたい。
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