2017 Fiscal Year Annual Research Report
The conflict between civil value and military value over the Right of Life
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26380056
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Research Institution | Tsuyama National College of Technology |
Principal Investigator |
大田 肇 津山工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (30203798)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 生命に対する権利 / ヨーロッパ人権条約 / 免脱 |
Outline of Annual Research Achievements |
29年度は、今回の2つの研究課題のうち、ヨーロッパ人権条約2条「生命に対する権利」を当該国家の領域外にも適用していくという法解釈がイギリス司法においてどのような展開していくのかを探ることに重点を置くものとなった。 この法解釈に関する2013年の最高裁判決(Catherine Smith 事件)の差戻審である高等法院での審理に注目していたが、最終的には原告(死亡したイギリス兵士の遺族)に対し国防省が謝罪するという形で決着がついた。また、イギリス軍により虐待されたというイラク人からの訴えを審理した2016年9月の控訴院判決(Al-Saadoon v. Secretary of State for Defence)は原告敗訴となり、その主任弁護士の弁護士資格剥奪の影響もあり、上告されないままとなった。イギリス軍がその戦場・占領地から撤退してから約10年、イラク戦争・アフガン戦争を巡るイギリス国内裁判所での事件は、ほぼなくなった。 他方で、この問題は、将来の海外でのイギリス軍の軍事行動に関しヨーロッパ人権条約から免脱(derogation)させようとする政府案を巡り、議会で議論されている。免脱に関しては、拙稿「軍隊の海外での作戦行動に関しヨーロッパ人権条約からの免脱を巡るイギリスにおける議論の検討」(津山工業高等専門学校紀要 59号、2017年)においてその賛否の意見を紹介しているが、「生命に対する権利」を当該国家の領域外にも適用していくという法解釈が軍事行動を過度に制約するのではという危険性を認める意見が多い一方で、それを回避するために免脱という手段は必ずしも有効ではない、あるいは免脱そのものができないとする意見が出され、まだ方向性が見えてこない状況である。
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