2015 Fiscal Year Research-status Report
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26380057
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
森 肇志 東京大学, 大学院公共政策学連携研究部, 教授 (90292747)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 武力不行使原則 / 国際連合憲章 / 自衛権 / 集団的自衛権 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の2年目である本年度は、9月に国際法学会において、「現代国際社会における集団的自衛権」と題する報告を行った。そこでは、集団的自衛権の法的性質論との関係で、国際司法裁判所ニカラグア事件判決において示された援助要請要件(集団的自衛権の行使に当っては、被攻撃国による援助要請が必要だとする要件)の位置づけを明らかにした。 すなわち、従来の研究においては、集団的自衛権の法的性質に関する学説を、個別的自衛権共同行使説、他国防衛説、死活的利益防衛説と整理した上で、そのいずれをも批判の対象とし、さらにはニカラグア事件判決に見られる国際司法裁判所の立場について、それが他国防衛説を取った上で、被攻撃国が①武力攻撃の発生を宣言すること、および②援助を要請すること、という2つの要件を加えたもの、と理解した上で、こうした2つの要件が国際慣習法上認められるかに対して疑問を呈するのが一般的である。 しかし同判決は実際には、援助要請要件が集団的自衛権の本質から導かれるものと位置づけている。したがってその本質も、「他国の個別的自衛権行使の援助」と理解することが適切と考えられる。このことは、わが国における同事件の読み方について新たな視点を提示するのみならず、少なくとも同判決において理解されていたその法的性質を明らかにしたものと言えよう。 また、本研究との関連で、昨年度におけるもっとも重大な事態は、2015年9月の、いわゆる新安保法制の成立(2016年3月施行)であり、そこでわが国による集団的自衛権の行使が法律上認められたことである。本研究でも、上記の検討の進展も踏まえた上で、わが国による集団的自衛権の行使にかかわる法制について、法的な評価を示した。 これと並行して関連する二次文献の読み込みを進めた。近年関連する二次文献の数は飛躍的に増大しており、それを追いかけること自体に、多くの時間が割かれた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の通り2015年9月の学会報告において、国際司法裁判所ニカラグア事件判決において示された援助要請要件の位置づけを明らかにし、そのことから同判決において理解されていた集団的自衛権の法的性質を明らかにしたことは、大きな成果と言える。この点については2016年8月締切の学会誌であらためて論ずる予定である。 また、新安保法制における集団的自衛権行使の容認について一定の法的評価を明らかにしたことも、成果の1つと言えよう。 これらとの関係で、リサーチ・アシスタント(大学院生のアルバイト)を使っての事例研究を開始したことも、着実な進展の1つを言えよう。 こうした成果を挙げる一方で、さらなる課題に大きさにも直面しているというのが正直なところである。
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Strategy for Future Research Activity |
事例研究については、引き続きリサーチ・アシスタントの助力も得ながら進めたい。 今年の8月には、昨年の学会で報告した内容を中心に学会誌に寄稿することとなる。他にも関連するトピックについて、書籍の一部を執筆している。また、今年の10月には、比較対外関係法に関する国際プロジェクトに参加し、その中で集団的自衛権を含む武力行使に関する問題を担当することとなったので、それへの準備およびそこでの他の参加者との議論などを通じ、研究は推進されるであろう。 これらと並行して、二次文献の読み込みは継続しなければならない。
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Causes of Carryover |
リサーチ・アシスタントのアルバイト代を確保していたが、実際に働いてもらえたのが2月の1か月間となってしまった。これは、今年度大きく変更された本学の学事歴の影響でもあり、また就職活動などを控えた大学院生の都合等も勘案しなければならなかったためでもある。もとより最終的には私の管理能力不足に帰着する。幸いに、次年度に使用することが許されるということだったので、無理に費消するのではなく、そうすることとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度行う予定であったリサーチ・アシスタント業務を、4月から5月にかけて行うことで、大部分は費消されることと思われる。残額は物品費等として使用する予定である。
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