2014 Fiscal Year Research-status Report
日本国際法学史研究に関する史学史的考察―国際法学の過去はどのように描かれてきたか
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26380066
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
川副 令 日本大学, 国際関係学部, 研究員 (40292809)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 日本国際法学史 / 立作太郎 / 横田喜三郎 / 田畑茂二郎 / 田岡良一 / 有賀長雄 / 高橋作衛 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、第一次世界大戦前後(=大正初年頃)に始まったと考えられる日本国際法学史研究が、その後どのような展開をたどって現在にまで至ったかを検討し、日本の国際法学史研究に関する「史学史(historiography)」的な考察を試みることである。計画期間は平成26年度から平成28年度までの3か年である。平成26年度は当初計画のとおり、文献調査・史資料収集に集中した。戦前及び戦中の日本国際法学に関する比較的最近の研究動向を押さえ、それに予備的検討を加えた結果、次の3点を確認することができた。 (1)従来、日本国際法学の歴史研究は、立作太郎、横田喜三郎、田岡良一、田畑茂二郎といった、各時代を代表する主要な学者の業績を中心に進められてきた。昨今の研究は、これらの主要な学者の業績についての分析を一層深化させているのに加え、例えば有賀長雄、恒藤恭、安達峰一郎、信夫淳平など、従来は必ずしも十分に研究されているとは言えなかった重要な学者の業績にも射程を延ばしつつある。 (2)大正期以前の国際法学者は、多くの場合、国際法学と外交史学(国際政治学)の双方に従事していたが、従来の日本国際法学史研究では、これを専門分野の未分化として否定的に捉え、国際法分野の業績のみを扱うのが一般的であった。昨今の研究では、専門分野の枠に囚われずに、一人の学者の業績全体を有機的に関連付けて捉え、その実践的な意味を探る試みがなされている。 (3)従来の日本国際法学史研究は、史料として、公刊された著書や論文のみを用いるものが多かった。昨今の研究では、外務省文書や書簡・日記等の他の種類の史料を積極的に用いるものが増えつつある。 以上に加えて、日本国際法学史研究と近現代日本史(政治外交史)研究の関係についても分析を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画は平成26年度から平成28年度までの3か年である。実施計画の概要は以下のとおりである。平成26年度は文献調査と史資料収集に集中する。平成27年度は戦前及び戦中までの日本国際法学史研究の展開を分析して、中間的成果を発表する。平成28年度は戦後日本における国際法学史研究の展開を跡付け、中間成果と併せて最終的な論文を執筆する。 平成26年度の課題である文献調査と史資料収集のうち、前者について相応の成果が得られたことは、上記「研究実績の概要」に記したとおりである。 後者(史資料収集)についても、外務省外交史料館所蔵の外務省記録(意見書、調書等)、国立国会図書館憲政資料室所蔵の安達峰一郎関係文書、山川端夫関係文書等を調査したほか、松田道一遺稿集等も入手して分析し、外務省と国際法学の接点に関するまとまった史料を得ることができた。これらの史料を基に、戦前日本における国際法学と外交実務の関係に関する従来の研究を評価/批判し、さらに新たな研究領域の存在をも示唆できるのではないかとの見通しを得ている。 また、日本国際法学史研究の基礎となるべき、日本近現代史(政治外交史)関係の最近の代表的な研究書を、条約改正史、戦間期東アジア国際関係史、政党政治史等を中心に調査して、予備的検討を加えた。その過程で、歴史学一般のなかでの国際法学史が占めるべき位置について考察したが、これは国際法学史研究の方法的問題とも関係し、考え方を整理し切れていないところがある。この点は次年度以降も研究を継続する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、当初計画のとおり、高橋作衞「明治期における国際法研究の発達」(1912年)と横田喜三郎「わが国における国際法研究」(1942年)の比較検討を行い、各々の特徴、時代背景との関係性、そして双方の意義と問題点を明らかにして、論文を執筆する。その際、特に以下の点に注意して研究を進める。 上記二論文を対比すると、執筆時期の差に応じて研究対象となる時期的スパンに一世代分の違いがあるほか、それ以上に重要な違いが、基礎的問題関心や方法面に見出される。すなわち、高橋は明治期に起きた具体的な事件や出来事が日本の国際法研究の発展にどのような影響を与えたかを個別に論じようとしている(そのため多くの一次史料を紹介している)のに対し、横田はごく大雑把な区分で各時代の代表的な国際法学者の著作を一括りに把握し、日本国際法学史の大まかな潮流を把握することだけで満足して、具体的な事件や出来事と国際法学の進展との関連性にはあまり関心を払っていない(用いている史料も著書や公刊論文に限定されている)。国際法学史研究の観点からすると、これは方法的な退化のようにも見えるが、しかし横田的な国際法学史論の成立それ自体に、一定の歴史的な必然性があったものとも考えられる。つまり、上のような差異は、部分的には高橋と横田の個人的な問題関心の方向性の違いに由来するものと考えられるが、別の視点からは時代環境の違いが両者の国際法学史研究のあり方にも影響したものと解することができる。この点を明らかにして、その成果を論文の形で公表することが、平成27年度の最重要課題である。 平成28年度は、戦後における日本国際法学史研究の展開を、第一に1970年代以降に生じた問題関心の変化、第二に冷戦終結後の新展開に焦点を合わせて、欧米諸国の国際法史研究の展開と対比しつつ、分析する。
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Causes of Carryover |
実績概要に記したとおり、本年度は文献調査・史資料収集に集中し、予算の全額を書籍等の物品購入費に充てたところ、当初購入予定であった幾つかの書籍(洋書)の出版が延期になるなどし、また緊急に追加調達すべき他の物品が即座には見つからなかったため、次年度に使用することとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
国際法関係、日本近現代史関係の書籍購入費に充てる。(専門書の平均単価5000円として、7冊の購入を予定。)
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