2015 Fiscal Year Research-status Report
高齢者医療をめぐる法政策の視座 -アメリカにみる高齢者の尊厳と配分的正義
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26380076
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
関 ふ佐子 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (30344526)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 社会保障法 / 高齢者法 / アメリカ法 / 医療 / 配分的正義 / 世代間公正 |
Outline of Annual Research Achievements |
医療費の嵩む高齢者医療の財源の多くは、若・中年者が、税や保険料という形で負担している。社会保障制度は、所得の再分配を行う仕組みだが、支える側と支えられる側の世代間の公正を保つことが、社会保障制度の持続可能性につながろう。 世代間の公正が際立って問われつつあるのが医療費の問題である。医療の技術革新の成果なども影響し、医療費の予測は年金給付額の予測よりも難しい。医療費は、社会保障関係費のなかで、最も急速に増え続けている。また、65歳以上の高齢者は全医療費の56.3%を使い、75歳以上の高齢者は、それ以外の年代の4.5倍の医療費を使っており、世代間の対立構造が生まれやすい状況にある。 こうした状況において、社会保障関係費を抑制する医療制度改革が先行した場合、高齢者のニーズが疎かにされ、高齢者の自律や尊厳が侵害されかねない。他方で、特定の世代の負担が急増しないような配慮も必要である。 本年度は、こうした高齢者医療をめぐる世代間公正の問題を第一に整理した。そのうえで、同程度の医療費がかかる透析医療と不妊治療の差異を分析した。透析医療は高齢者医療において多く行われ、その医療費は増大する傾向にある。他方で、少子化対策ともなりうる不妊治療を受ける人も増えている。しかし、透析医療は社会保険の給付対象となっている一方、不妊治療は社会保険の給付対象とはなっていない。 これをめぐる配分的正義の課題について、救済原理(Rescue Principle)、効用、高齢者の「功績」の観点から分析した。その成果は、医師の集まる整形外科未来探索研究会において報告した。 また、アメリカでは、高齢者の医療費を削減するために、メディカルホーム(かかりつけ医的な医療機関)がオバマケアにおいて推進されている。こうしたオバマケアについて、平成28年年5月に日本医師会とともに視察することとなった。その準備を平成27年度は行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は、第一に、高齢者医療をめぐる配分的正義について研究し、高齢者医療を支える法原理、哲学的な基盤に関する研究を進めるという計画をたてた。その計画どおり、配分的正義をめぐる法哲学の文献を研究し、日本の問題状況に当てはめて検証した。その成果は、整形外科未来探索研究会において「高齢者医療における配分的正義」というテーマで報告した。その際、報告について実務家である医師から得られた知見をもとに、さらに研究を進めている。 第二に、高齢者医療をめぐる法政策の研究として、オバマケアの動向調査を進める計画をたてた。これを進め、その結果、日本医師会の視察に同行し、平成28年5月にアメリカのワシントンとニューヨークに視察に行くこととなった。日本医師会の視察に同行することにより、単独ではアポ取りの難しいアメリカの政府機関であるCMS(Centers for Medicare and Medicaid Services)への訪問などが実現した。他方で、日本医師会の医師団が単独で行うことは困難であった現地の関係機関や専門家とのアポ取りや質問事項の作成など、視察のための準備を平成27年度は行った。なお、平成28年度早々にアメリカに視察に行くこととしたため、平成27年度に在外調査を行わなかった点は、研究計画と異なる形となった。 第三に、平成27年度は、世代間分配の問題について、医療保障制度における議論以上に明確な形で議論が進む年金制度について研究し、その成果を公表した。 第四に、高齢者の終末期医療において検討せねばならない事項などを加味してエンディングノートを作成し、高齢者法研究会において研究成果を報告した。 第五に、アメリカの研究者とは、引き続き、メールやスカイプなどで意見交換を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、第一に、5月に日本医師会の視察に同行し、アメリカのオバマケアの実態とその課題を研究した。大統領選挙を控え、医療保障制度をめぐる議論も先鋭化しており、そうしたアメリカの視察は、非常に充実したものとなった。平成28年度は、この視察の成果を整理し、まとめる作業をまずは行う。 平成28年度は、本研究の最終年度であり、平成26・27年度の研究計画に挙げた点を掘り下げ、さらに鳥瞰的な視点に立って補強する予定である。 具体的な視察の成果である実践的研究と、卓上の研究である法哲学の研究とを融合した研究を行いたい。 そのうえで、研究の成果を国内外の研究会や学会で発表していきたい。
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Causes of Carryover |
平成27年度に実施を計画していたアメリカへの視察を平成28年5月に行うこととなったため、その経費が未使用となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年5月に日本医師会の医師と一緒に行う視察において、その費用を使用するほか、資料整理などを行うための人件費に繰越した費用を使用予定である。
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Research Products
(5 results)