2015 Fiscal Year Research-status Report
経済社会の構造変化と労働法における「交渉」と「合意」に関する日独蘭比較法研究
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26380081
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
米津 孝司 中央大学, 法務研究科, 教授 (30275002)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | フレキシキュリテー / 交渉 / 合意 / グローバル化 / 法学方法論 / 労働法 / オランダ / 均等待遇 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は引き続きオランダ・アムステルダム大学ジンツハイマー研究所にて研究を継続した。オランダでは、パート労働や有期・派遣労働などのフレキシブルワークにより労働市場の柔軟化を推進する一方で、労働協約と解雇法制、均等処遇原則、さらに各種の社会的包摂の施策により、盤石のセキュリテー保障のシステムを構築してきた。このフレキシキュリテー・システムにおけるメタレベルの作動原理が<選択の保障>であり、それを支える法原理の基軸が<交渉>と<同意>である。20世紀の労働法システムが、労働法規と協約による最低基準保障を基軸とするものであったのに対して、21世紀の労働法システムは、20世紀システムを基礎としつつ、徐々に<交渉>と<合意>を基軸としたシステムへと移行しつつある。オランダ労働法における各種の試みは、その理論的意味を考察するに際しての豊富なデータを提供することを確認しつつある。他方、今回の在外研究においてドイツとの研究交流も継続し、とくに独日労働法協会における解雇法理の比較法研究に関する講演報告の機会を得ることができ、そこでのドイツの労働法研究者と意見交換によって、ドイツにおける労働法制の直近の動向を把握することができた。以上の研究成果の一部は、日本労働研究機構雑誌に連載掲載中である。なお、2015年6月にはアムステルダムにおいて開催された労働法リサーチネットワークの国際会議、同年9月にはケープタウンにて開催された国際労働法社会保障法学会に参加し、主として国際労働法のセッションに参加し、グローバルな労働法秩序の形成における交渉と合意の役割に関するヒントを得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では、ドイツにおける研究滞在を通じてドイツ法との比較研究を行う予定であったが、諸般の事情(主として家族的事情)からアムステルダムから長期間離れることができず、ドイツでの一時的な滞在研究にとどまった。したがってドイツ法との比較研究についてはかなりの遅れが生じている。また当初計画ではクラウド技術を用いたデータ共有システム、ソーシャルネットワークシステムによる研究推進、公表システムの構築を図る予定であったが、当初予定していた人材の健康上の理由からこの作業が遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
三カ年計画の最終年度である2017年度は、ドイツ法研究の遅れを取り戻しつつ、在外研究の成果を整理し、経済社会構造の変化、とりわけ情報化とグローバル化を規定要因として、大きな構造変化を遂げつつある労働法システムの形成およびオペレーションシの基軸的な法原理となりつつある<交渉>と<合意>に関わる一般法理を提示すべく考察を進める。随時、オランダやドイツとの研究者との意見交換、そのための海外出張や招聘を行いながら、理論的な彫琢を目指す。労働法の基礎理論に関わる上記の研究と共に、その応用、実証の研究として、日本労働法の政策動向や判例の動向をフォローし、とりわけ均等処遇原則、就業規則法理、労働協約法理、国際労働関係法理の各テーマについて、<交渉>と<合意>をキーワードとする検討を行う予定である。また遅れが生じているクラウド技術を用いたデータ共有システム、ソーシャルネットワークシステムによる研究推進、公表システムの構築を早急にはかっていきたい。
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Causes of Carryover |
情報提供者に対する当初予定した諸金の支出が、先方の好意により不要になったこと、ドイツにおける滞在研究関連費用が、既述の理由から支出できなかったこと、IT関連作業(クラウド研究推進・公表主ステム構築)の遅れからこれに関する支出ができなかったこと、などの理由による。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
ドイツ関連の支出、意見交換のための出張会議費、IT関連作業は、2017年度中にその遅れを取り戻す予定であり、そのための支出を計上する。
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