2014 Fiscal Year Research-status Report
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26380082
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
浅倉 むつ子 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (80128561)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 複合差別 / 雇用差別禁止法 / 障害差別 / 性差別 / イギリス平等法 / 結合差別 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、EUおよびイギリスにおける雇用差別禁止法制において、複合差別の是正・救済法理を研究することである。2014年度は、主として、以下の3点に関する検討を行った。 第1に、イギリス2010年平等法の全体像を明らかにすることである。イギリスでは、膨大な条文が複雑に入り組んでいた既存のさまざまな差別禁止立法を一つに統合する2010年平等法の中に、複合差別禁止条項が組み込まれた。そこで、2014年度の研究としては、(1)同法の成立とその背景、(2)条文の全体像の素描、(3)禁止される行為類型の把握(とくに雇用分野)、(4)複合差別の条文分析、を行った。とくに(4)についての研究成果として、同法14条が「結合差別」という形で、2つの事由が結合した場合の差別禁止規定を設けていることを明らかにした。一般に、2つ以上の複数の差別事由が交錯して機能しているために、個別の事由による差別が立証しにくい状況は、交差差別(intersectional discrimination)といわれる。結合差別は、交差差別の中で、2つの事由が交錯している場合である。14条に関して、イギリスの「注釈」を参考に、人種と性の結合事例、宗教とジェンダーの結合事例を検討した。 第2に、日本の状況と比較するために、雇用における性差別と障害差別に焦点をあてて、日本における差別禁止法理について研究を行った。日本の雇用差別禁止法制は、男女雇用機会均等法がモデル化されており、個々の差別事由に応じてモザイク的に立法化が進んできた。したがってイギリスのような包括的・統合的な差別禁止法制への展望はない。そこで、日本の法制における問題点を明らかにする研究を行った。 第3に、イギリスの判例において複合差別がとりあげられている判例を収集し、そこにどのような問題点が含まれているか、検討を加えた。この研究はなお途上である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本では、複合差別について、政策課題として浮上していても、法学的な観点からの理論的研究はほとんど進んでいないのが実情である。そこで、本研究は、労働法の観点から、EUおよびイギリス法を対象として、複合差別法理の研究を深めることとした。具体的には、EUの指令およびイギリス2010年平等法において、いかなる複合差別概念が想定されているのか、この新たな概念を支える法理論的な基盤はどこにあるのか、なぜこの複合差別禁止規定が設けられたのか、この差別概念によって、雇用差別に対する是正・救済効果は高まったのか、を明らかにするところに目的がある。 2014年には、差別禁止法理をめぐる文献や判例を幅広く読みながら、複合差別禁止法理が内包する論点について検討を行い、複合差別禁止法理がいかなる差別禁止モデルを想定しているか、分析することを計画していた。 計画にしたがって、2014年には、2010年平等法の結合差別禁止規定の制定趣旨や規定の内容、さらに「評釈」という文書から、この条文が何をめざしているのかを明らかにすることができた。このような条文化が可能になった背景には、イギリスには、すべての差別事由に共通する「差別の反規範性の認識」があったといえよう。包括的立法化作業こそ、複合差別禁止規定をもたらした基盤であったと考えられる。 一方、日本の場合には、複合差別の禁止を条文化したものはない。日本では、差別禁止法制が、均等法をモデルとして、個別事由ごとにモザイク的に制定されてきている。差別の是正については行政指導がメインであり、このような法制においては、複合差別救済システムの創設という発想を実現させるのは難しい。 本年の研究で明らかになったことは以上のことであり、研究はほぼ順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、EUおよびイギリスの文献と判例分析をさらに進めると同時に、複合差別法理の新基軸となる論点を抽出して、イギリスの研究者との意見交換を行うことにしたい。そのうえで、本研究全体の理論化を試みて、日本においても複合差別禁止法理の必要性について、研究者間の共通認識が形成されるように、いっそう研究を深めていきたい。
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Causes of Carryover |
初年度にパソコン、プリンター等、必要な物品を購入する予定だったが、年度末までにうまく選択できず、やむをえず未使用となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2015年度にパソコン、プリンター等、必要な物品を購入して利用を開始したい。
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Research Products
(8 results)