2015 Fiscal Year Research-status Report
福祉的支援を必要とする被疑者・被告人と刑事手続のあり方に関する実証的研究
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26380089
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
葛野 尋之 一橋大学, 大学院法学研究科, 教授 (90221928)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 起訴猶予 / 刑事手続 / 更生緊急保護 / 再犯防止 / 福祉 / 検察官 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、第1に、更生緊急保護事前調整プログラムなど、全国各地において実務上展開している知的障がい者・高齢者などを早期に刑事手続から離脱させ、福祉的支援につなごうとするプログラムについて、仕組み、運用状況、問題点などを、文献調査、聞き取り調査などによって調査した。また、検察庁の実施する、起訴猶予と結びついた再犯防止プログラムについて、さいたま地検を訪問し、事情を聞き取った。この結果、最近、検察庁における再犯防止に向けた取組が積極化しており、そのなかで、再犯防止のために起訴猶予を積極活用する方向が強調されていることが明らかになった。反面、このような傾向が、刑事手続の原理・原則、刑事手続の基本構造、検察官の基本的役割などとの整合性・適合性については、自覚的に論じられていないことが明らかになった。 第2に、検察官の訴追裁量権、その積極的行使による起訴の厳選を中心的要素とする「精密司法」、さらには当事者主義とデュー・プロセスについて、先行研究をレビューする形で、理論的検討を加えた。その成果の一部は、「検察官の訴追裁量権」川崎英明=葛野尋之編『リーディングス刑事訴訟法』(法律文化社、2016年4月刊行)、「刑事司法のモデル論」朴元奎=太田達也編『リーディングス刑事政策』(法律文化社、2016年4月刊行)の原稿としてまとめた。 第3に、イングランド・ウェールズ調査を実施し、日本国内における文献調査の結果を踏まえて、一種の条件付起訴猶予制度ともいえる「条件付警告処分(condithional caution)」について、(元)裁判官、検察官、弁護士、バーミンガム大学法学部教授などにインタビューを行い、その運用状況、問題点などを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
刑事司法と福祉とをつなぐ取組については、現在、各地においてさまざまな動きが展開しており、その動きは急であるため、全体状況を正確に把握すること自体、大変大きな困難がともなう。また、刑事手続の基本構造、検察官の権限などの相違に起因して、日本の状況、問題と比較検討する対象とすべき適正な外国の制度・手続が見つけづらかったこともあり、外国の諸制度についての調査・検討が少々遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
2016年度には、日本刑法学会ワークショップ「起訴猶予と再犯防止」(オーガナイザーは太田達也・慶應義塾大学教授)において、手続法的観点から、刑事手続の原理・原則、刑事手続の基本構造、検察官の基本的役割などとの整合性・適合性に焦点を合わせた報告を行う予定であり、そのための準備およびその成果の取り纏めを行う。再度の外国調査も企画・実施する予定である。
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Causes of Carryover |
発注した洋書の出版や到着が遅れるなどしたため、その分の支出予定が次年度送りとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度以降、物品購入、外国調査の実施も含め、研究遂行のために使用する予定である。
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Research Products
(3 results)