2015 Fiscal Year Research-status Report
再犯予防における保安処分論の意義に関する研究 -総合的再犯予防策の構築に向けて-
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26380092
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
井上 宜裕 九州大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (70365005)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 保安処分 / 再犯防止 |
Outline of Annual Research Achievements |
フランス、ドイツ、または、それ以外の国で保安処分がどのような形で導入され、実施されているかを日本に紹介する文献が散見されるようになったが、依然として、日本における保安処分をめぐる議論状況は脆弱である。ヨーロッパ諸国が、刑罰と保安処分の二元主義に立脚し、その本質を択一的二元主義から重畳的二元主義に移しつつある状況に対して、日本の議論は、全く対応できていないことが再び確認された。 前年度、フランスにおける重畳的二元主義について分析を加えたが、今年度は、ドイツの問題状況を検討対象とした。ドイツでは、紆余曲折を経て、事後的保安監置が立法化され、合憲判断が下されるに至った。これにより、ドイツにおいても、フランス同様、刑期満了後の収容の制度化により、保安処分の究極型ともいえる保安監置に関して、刑罰と保安処分の重畳的二元主義が憲法上是認されたことになる。ドイツの保安監置をめぐる立法過程の検討を通して、保安処分の人権侵害性、及び、保安処分における治療の要否等の問題が浮き彫りとなった。また、電視監視制度の導入をめぐるドイツの議論状況も、電視監視制度の有用性と人権侵害性の双方を指摘するもので、ドイツ保安処分論の基本的視座を確認する契機となった。 なお、前年度の残された課題であった、フランスにおける保安処分の実施状況の地域差について、移動型電視監視は、地方では物的・人的体制の確立が困難で、地方における対象件数の僅少さと相俟ってますます整備が立ち後れている状況を確認することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、各国で喫緊の課題とされている再犯防止に関して、保安処分による対応が理論上、実際上可能かを総合的に検討し、日本における保安処分導入の是非を明らかにすることである。 初年度明らかにした、日本における保安処分論の理論的脆弱性を踏まえた上で、今年度は、フランス及びドイツの比較法的検討に取り組み、新たな理論的基軸の構成に着手できている。具体的には、刑罰と保安処分の二元主義を前提にした両国において、択一的二元主義ではなく、重畳的二元主義にシフトしつつある現状を把握し、その理論的正当性の吟味へと歩を進めている。 前年度の残された課題であった、フランスにおける保安処分の運用状況についても、さらに細部に触れることができた。 もっとも、フランスとドイツの状況をそれぞれ分析することはできたものの、直ちに比較分析が可能になるほどの統一的視座の構築には至っていない面があり、今後の整理を要する点ではある。 しかしながら、この点は、最終年度の総合的分析に際し、支障となるほどの大きな問題ではなく、年度当初に資料を拡充しつつ、解析作業を行えば、十分対応できる範囲のものである。従って、本研究の現在までの達成度は、標記のとおり、概ね順調に進展していると考えてよいと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで、日本における保安処分論の理論的脆弱性、並びに、刑罰と保安処分の併用を視野に入れた重畳的な二元主義を採用するフランス及びドイツの議論状況について検討してきた。 今後は、これらの検討結果を踏まえつつ、日本のいわゆる択一的二元主義の導入をめぐって展開されてきた議論とフランス及びドイツにおいて現在展開されている重畳的二元主義を比較対照して、刑罰と保安処分の関係についてより精緻な分析を行う。 その際、重畳的二元主義の理論的根拠、基本的視座を詳細に分析し、刑事法上のさまざまな基本原理との関係、とりわけ、責任主義との関係を精査する。 他方で、フランス及びドイツにおける保安処分の実施状況に関するこれまでの分析から、保安処分を実施する上での実際上の問題点を抽出し、日本においてそれらがどのように作用するかを推測する。 その上で、本研究の目的である、再犯予防に関して、保安処分による対応が理論上、実際上可能かを総合的に検討し、日本における保安処分導入の是非を明らかにしていく。そして、最終的には、再犯予防の問題を総合的に捕捉すべく、刑罰論と保安処分論を包含する社会的反作用論の全体像の提示を試みる。
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Causes of Carryover |
対ユーロの為替変動による。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は少額であるため、研究費の執行計画に影響を及ぼすものではないと考えている。
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